「【”若さ故の大きな過ち。だが・・。”今作は、時代遅れの男の半世紀に亙る生き様を、淡々と、だが流れゆく時代を背景に描き出した作品。随所で高橋伴明監督らしいシニカルなシーンが盛り込まれた作品でもある。】」「桐島です」 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”若さ故の大きな過ち。だが・・。”今作は、時代遅れの男の半世紀に亙る生き様を、淡々と、だが流れゆく時代を背景に描き出した作品。随所で高橋伴明監督らしいシニカルなシーンが盛り込まれた作品でもある。】
■鑑賞理由
・私が法律を学んだ大学は反権力の気風が横溢しており、それ故に革マル派の残党の”貴方、本当に大学生ですか?”みたいなオジサンが学内に数名居り、正門にはデカデカと“打倒、日帝‼”とか”寮費値上げ断固反対!”とか時代遅れの立て看板が置かれていたり、偶に授業に出ようとするとバリケードが築かれていて授業が中止になったり、学校に向かっている途中で、警察手帳を見せられ公安に色々と質問されたりした。(ご存じの通り、警察は大学には事件が無いと入れない。大学には自治権があるからである。)
一番嫌だったのは、数カ月に一回行われる学生側と大学側との団体交渉に強制的に出席させられた事である。学生側と言っても、前列に居るのはオジサンばかりで(7.8回生)団交時間は異様に長く、嫌になったモノである。
更に頭に来たのは,級友の数名がソッチ系の寮に入寮してしまったために、洗脳されて学校に来なくなった事であろうか。
故に、今作も”テロを起こし、多数の人を殺傷した組織と関係していた男の死に様を見てやろうじゃないの!”と言う感じだったのだが、イキナリ肩透かしを食らってしまった。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・桐島を演じた毎熊克哉さんの、冒頭から思想の”時代遅れ”をガールフレンドに告げられ、一方的に別れを言い渡されるシーンや、事件後に同じ”さそり”の宇賀神(奥野瑛太)達と工事現場で土方として働くときの、ひ弱な姿に可なり戸惑う。
・そして、桐島が内田という偽名を使いながら、アッサリと土建業に就職し、仲間達と日々過ごす姿が淡々と描かれるのである。
■彼が、行きつけのバーで出会ったキーナ(北香那)が歌う”時代遅れ”を聞き、涙し、アパートで独りギターを抱え練習する姿や、キーナ達と楽しくボーリングをした後に、彼女に告白された時には”私はそんな・・。”と言いながら後ずさりする姿など、何処にも政治思想犯の面影はないじゃないか、と思っていたら、
工事現場で若い同僚が、”クルドの連中に働かせればいいじゃないですか。”と言った後に、クルド人作業者から入国管理局の杜撰な対応を言われ”ごめんなさい、こんな日本で・・。”と頭を下げたり、外国人作業者蔑視の発言に激昂したり・・。
一番、印象的だったのはアパートのTVに故宰相が得意満面で特定機密保護法可決の際の自説を述べる姿を見て、桐島がTVを叩き壊すシーンである。
ここは、高橋伴明監督らしい皮肉が炸裂しているし、良く映倫を通ったモノである。
何故なら、ご存じの通り特定機密保護法には【テロ防止】も含まれているからである。
・桐島が仲良くなった隣人(甲本雅裕)が泥棒だったために警察に逮捕されても、彼は公安に捕まらないのも高橋伴明監督らしい皮肉が込められているのである。
<そして、桐島は末期がんを患い、健康保険も無いまま入院し、末期に半世紀ぶりに本名を名乗るのである。
その報を知った、アラブの何処かに居る超法規的措置で釈放されたAYA:大道寺あや子(高橋恵子)は、ムスリムの姿でライフルを抱えながら”お疲れ様・・。”と笑顔で呟くのである。
今作は、時代遅れの男の半世紀に亙る生き様を、淡々と、だが流れゆく時代を背景に描き出した作品であり、随所で高橋伴明監督らしいシニカルなシーンが盛り込まれた作品でもある。>
<2025年7月20日 刈谷日劇にて鑑賞>

