劇場公開日 2025年7月4日

「受け取る側にも「それなりの判断力」が求められる一作」「桐島です」 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0受け取る側にも「それなりの判断力」が求められる一作

2025年7月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1971年生まれの私にとって、指名手配犯或いはその写真ですぐに思い浮かぶ代表格「桐島聡」。昨年、突然の「桐島と名乗る人物」の身柄確保と間もなくの死去が報道され話題となった桐島聡を、巨匠・高橋伴明監督(兼脚本、プロデューサー)が描いたと聞いてサービスデイの本日、新宿武蔵野館にて鑑賞です。
本作は当時、大学生だった桐島(毎熊克哉)が同志たちと蜂起して起こすテロ事件をきっかけに、一部共犯者の逮捕と自らも指名手配されて追われる身となり逃走した「その後の桐島聡の人生」が描かれます。
その状況からも想像に難しくない桐島・逃走後の人生は、周囲から「そういう人いるよね」と言った感じの曖昧で抽象的な印象であり、特筆して目立つようなタイプではありません。普段は真面目に働き、余暇には程々の飲酒と好きな音楽を楽しんでいますが、不意に見かける警察の影に脅えたり、自らが犯した行為を見る悪夢にうなされて起きる朝など、安らぐことのない孤独な人生は「犯した罪への終わることのない代償」の日々。
そんな桐島が行きつけの酒場で、突如現れて舞台に上がる歌手キーナ(北香那)の弾き語りで披露される「あるヒット曲」に動揺しながらも心を震わせるシーン。この選曲と演出は本作最大の見せ場で大成功と感じる流石の巨匠・高橋伴明監督。とは言え、その後も再三にわたってヘビーローテーションするのは、ややその選曲の成功に頼りすぎな面も否めません。
また、桐島の「人となり」を示すためのエピソードの数々として。時に特別意識することもなく当たり前のように利他的な行動をとる桐島を見れば、その人間性についつい肩入れしたくなって大変に魅力的です。更に、周囲がこぼす「制度」や「社会システム」に対する不満に対し、国を相手取った「陰謀論」で対抗するところなどはユーモラスさを感じます。ただ一方で、世間知らずの若者による外国人(朝鮮人やクルド人)への差別的な発言に対するやや過剰な反応や、テレビから流れる当時の首相の「ある政策」に怒って取る行為など、若干ステレオタイプに感じていささか表層的。その人物像を語るには、いくらフィクションとは言え「実在する人物」が基になっているだけに肝心なリアリティが足りておらず、むしろ「こうであって欲しい」と背負わせすぎな印象も感じます。(※蛇足として…個人的には「最期の自供」や「うーやんというニックネーム」など、逃走後は「桐島ではなく内田洋」に成り切り、思想家とは遠くてもっと俗っぽい人生を送るように心がけていたのでは??なんて、ただの想像ですが。)
兎も角、高橋伴明監督ということで少々ハードルを上げすぎたのか、つまらなくはないけどちょっと物足りなさも感じた本作。主義主張のために一般人を巻き込む事件を起こし、罪を償うことを良しとせずに逃走した人物を「英雄視」こそしていませんが、指名手配犯・桐島を通して(或いは利用して)語るという「手段」には、受け取る側にもそれなりの判断力が求められると思います。本作、観終わってから「(本作冒頭の)事故を報じた映像」を思い出すことも重要。突然の大道寺あや子a.k.a.“謎の女AYA”(高橋惠子)登場に惑わされてはいけませんよ。

TWDera
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