劇場公開日 2025年7月4日

「彼は自分の人生を生きられたのだろうか…」「桐島です」 さとうきびさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 彼は自分の人生を生きられたのだろうか…

2025年7月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

驚く

駅で見かける指名手配写真。
彼らの人生を考えたことは無かった。
なんだか過激な事件を起こしたヤバい人。
そんな冷たい視線を送っていました。
この映画を観るまでは。

1974年の三菱重工本社ビル爆破事件など、いわゆる過激派が起こした一連の犯罪で指名手配犯となった青年の半生を、正体を隠して生きた50年間の軌跡を描いています。

警察を見るたびに隠れ、いつでも逃走できるよう枕元に靴を置いているのも彼。
かつての仲間たちの逮捕に怯え、消息を伝える新聞記事を息を潜めて読み、実家と連絡をとることもできないのも彼。
同じ工務店で40年余りの年月を勤めあげ、同僚や地域の人々に親しまれる好人物もまた彼。
故なき差別に我を忘れて激高してしまうのも彼。
彼が生きたかった人生はこの中のどれだったのだろうか。

平和な世界を願い、不当な搾取に断固意見する。
食い物にされている弱者には手を差し伸べずにはいられない。
そんな優しい人がこのような生涯を送らざるを得なかった状況に忸怩たる思いを抱きました。

40年間住み続けた部屋の家具や所持品が、時を経るにつれて少しずつ現代風になってゆくのが妙に印象的でした。

さとうきび