「南大東島に、行ってみたくなるわけさぁ」風のマジム LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
南大東島に、行ってみたくなるわけさぁ
9/22@渋谷ユーロスペース。
伊藤沙莉が主演という予告編を見て「即買い」(チェック)していた。
彼女の魅力が全開の佳作でした。これはぜひオススメ。
『虎に翼』以来のお目見えですな。
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沖縄の地場中堅企業に契約社員として働く伊波まじむ(演: 伊藤沙莉)。
まじむとは、沖縄の言葉で真心。自宅に続く作業部屋でゆし豆腐を作り、庭先の席で食べさせる商売をしているおばあ(演: 高畑淳子)が名付けてくれた。
父親はおらず、豆腐作りを手伝う母(演: 富田靖子)と女性三代で暮らしている。
まじむの毎日は、露骨に正社員と差を付けられて鬱々と雑用をこなしている。
同僚だった子は勉強して司法書士に合格して辞めていった。
まじむの唯一の楽しみは、定時後は大好きな酒を飲んで憂さを晴らすこと。ある日、行きつけのバーでバーテンダー(演: 染谷将太)からアグリコールラムの試飲を勧められ、その美味しさに絶句する。
アグリコールラムとは、一般的なラムは製糖のために搾ったあとのサトウキビを原料にするのに対し最初から醸造を目的として搾る、いわば「一番搾り」の高級ラム。
そして同時にラム酒の原料がサトウキビであること、しかしサトウキビが名産の沖縄に沖縄産のラム酒がないことに今更ながら気づく。
後日、いつものようにシュレッダーにかける紙の山を渡されガーガーと放り込んでいると、社内ベンチャー募集のチラシに目が留まる。そこには「契約社員の応募可」の文字が。
突然、沖縄のサトウキビからアグリコールラムを作る事業が天啓のようにひらめいた。
やがて一次審査、二次審査も通過し、意気揚々のまじむだったが、サトウキビの大産地、南大東島の村長をはじめサトウキビ農家は「今のままで良い」と大反対。
酒の設計者となるキーパーソンも、上司、糸数(演: シシド・カフカ)と会社の意向で東京の著名な(しかし片手間感が満載の)醸造家に指名が決まりそう。一方、まじむが惚れ込んだ地元の醸造家、瀬那覇(演: 滝藤賢一)には多忙を理由に断られてしまう…。
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原作は原田マハ。初の沖縄産ラムを作った金城佑子さんをモデルとして創造された物語である。
いやーさすが伊藤沙莉、上手い上手い。かつ、魂が入った演技だった。
そして、作品に派手さが全くないこと、TOHOシネマズ系などメジャーな配給ではないことを考えると、この脇役陣の顔ぶれは尋常ではない(今後の興収によっては公開館が拡大するかも)。
つまり、名だたる芸達者たちが作品の素性と伊藤沙莉に惚れ込んで手弁当感覚で参加している気がする。
南大東島のざわわな風景も目に染みた。まさにまじむの風だ。行ってみたくなる。
タイトル『風のマジム』の種明かしはエンドロール直前に。
