「映画の救世主は人類の救世主になれたのか?」ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5映画の救世主は人類の救世主になれたのか?

2025年5月17日
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J.J.エイブラムスが関わった『 M:I:Ⅲ』 と『ゴースト・プロトコル』が大好きな自分にとって、『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家クリストファー・マッカリーと組んだシリーズ4作品はどうものりきれない、劇場で観ていてもケツの痛さだけが気になって映画に没入できないのである。

コロナ禍で大打撃を受け不況に苦しんでいた映画業界に一筋の光が差し込む。トム・クルーズ主演で大ヒットを飛ばした『トップガン マーヴェリック』がそれである。文字通り映画業界の救世主となったトム・クルーズは、スタントダブルを使わないアクションが最早名物化している本シリーズで“人類の救世主”になろうとしたのではないか。

人を平気で殺める冷酷な一面と組織や仲間への絶対的忠誠心という複雑な人間性を併せもったイーサン・ハントを、トム・クルーズが長年に渡って演じ続けて来たのだが、世界がグローバリズム化していくと共に、CIAの極秘諜報部隊 IMF(Impossible Missions Force、不可能作戦部隊)へのロイヤリティを次第に失っていくのである。

つまり“誰のために、何のために”という目標を失って、アメリカ人と同様にイーサンは迷走をはじめるのだ。この辺りは、MI6に見捨てられ一匹狼化していったジェームス・ボンドと≒といってもよいだろう。そこでトムは考えたのだろう。“影に生き、影に死ぬ”ことによってワールド・ピープルの未来のためにイーサンの身を捧げさせよう、と。

そんな人類の救世主たるイーサンが暴力にまみえる(レーティングにひっかかる)のはまずいと、牢屋に捕えられたイーサンが悪党どもを血祭りにあげるシーンなどをあえて“ボコボコ音”のみで演出するのである。その代わりに用意されたこの映画の見所は、人類滅亡をたくらむAIの知能を得たイーサンが、救世主にいたるための“苦行”シーンの数々だ。

ベーリング海に沈んだロシア原子力潜水艦から殆ど裸で脱出したり、プロペラ機に素手でつかまって何度も振り落とされそうになるイーサンは、悟りに至るまで7年もの苦行に耐えたゴータマ・シッダールタそのものだ。だが現実的にはあり得ない超人技の数々を見せられたところで、宗教ゼロ状態の我々日本人がそこに感情移入することは難しいだろう。

かつてのシリーズでイーサンに葬られたキャラクターたちと和解するセルフ・オマージュや、映画冒頭の感慨深げなトム自身のコメントの方に、むしろ心を動かされた方が多かったのではないだろうか。韓国でおこなわれたワールドプレミアで、「トランプ関税が外国製映画にかけられることについてどう思われますか?」との鋭い質問に一瞬表情を曇らせたと伝えられるトム。私たちはなぜか、完全無欠のスーパーヒーローよりも、時折人間的な弱さを垣間見せる主人公の方に共感をよせやすいようにできているのかもしれない

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かなり悪いオヤジ
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