「あなたは神を信じますか~♪」異端者の家 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたは神を信じますか~♪
教会本部からの指示で
森の中の一軒家を布教に訪れた
二人のシスター、
『バーンズ(ソフィー・サッチャー)』と
『パクストン(クロエ・イースト)』。
迎え入れた『リード(ヒュー・グラント)』は
人当たりの良さそうな初老の男性。
彼には妻もおり、今は家の奥でパイを焼いているとのことで、
心を許したシスターたちは居間に通りソファに腰を下ろす。
そこで『リード』は宗教、
とりわけ彼女たちが信仰する「モルモン教」についての論争を挑んで来る。
ただならぬ気配を感じ逃げ出そうとするが、
玄関のドアは閉ざされ、携帯の電波は届かず、
外への連絡を取ることもできない。
家の奥へと誘い込まれ、
家から出るには
「信心」「不信心」と書かれたドアのどちらかを選ばなければならない、
と『リード』から提示される。
究極の選択を迫られた二人は
片方の扉を開けるのだが、
その先には更なる恐怖が待つ、との{サイコスリラー}。
幾つかのサインは最初から示されている。
『リード』の外見は、
年齢こそ異なるものの、
有名な「シリアルキラー」の『ジェフリー・ダーマー』に酷似。
そして部屋の中に閉じ込められた蝶。
終盤に語られる「胡蝶の夢」との繋がりは明らかも、
〔コレクター(1965年)〕でも象徴的に使われ、
片や蛾だが〔羊たちの沈黙(1991年)〕でも重要なアイテム。
観客は映画の行く末を、かなり最初から予見する。
『ヒュー・グラント』が素晴らしい。
知能は高く用意も周到。
最初は気さくに、
次第に自説を言い募るも激昂することはなく、
しかし不気味さを感じさせる『リード』を
絶妙の空気感で演じる。
登場人物の口を借りてはいるものの、
キリスト教に対しての疑義を
これだけあからさまに提示した作品も珍しい。
「モルモン教」は全世界で一千万以上の信者が居るらしいが、
その教祖や教義に対しては明確に異を唱える。
「旧約聖書」も、
「洪水物語」であれば、
それ以前に成立した「ギルガメシュ叙事詩」に酷似した記述はある。
先行する幾つもの宗教や言い伝えを纏めた書物とのフラットな見方は
しかし「キリスト教福音派」からすれば噴飯ものだろう。
が、現代のアメリカ社会へのアンチテーゼなのは間違いのないところ。
「支配」する側に都合の良いのが「教義」との説は
全ての宗教に対する痛烈な皮肉にも取れる。
もっとも彼の言い分は、
自身の欲望を満たすに構築されたのは結末を観れば明らか。
高説も使い方次第と鼻白む。
二人のシスターの服装は暗示的。
「Black and White」の明確な配色は、
繰り返し問われる、
「信心」「不信心」にも関係しているよう。
{ワンシチュエーション}の後半は
閉ざされた屋内からの{エクソダス}モノに収斂。
緊迫感はあるものの、
先に挙げた理由により、示された真相にさほどの驚きはない。
{ホラー}的な描写は軽く、
謎解きの要素が強く出され終幕に至る。
そうした{サスペンス}的な側面よりも、
披瀝される宗教に対する見識に
どうしても興味が向いてしまう。