「「いい導入」、そして「いい余韻」に浸れる巧い一本」異端者の家 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
「いい導入」、そして「いい余韻」に浸れる巧い一本
さて、「A24作品」の公開ラッシュが続く配給元のハピネットファントム・スタジオ。TOHOシネマズでは幕間での宣伝など「力の入れよう」が見て取れますが、本作について言えばDolby AtmosやDolby Cinemaなどその作品性に対して「要らないかな…」と感じるアップグレード上映も目につき、少々「空回り」している感も否めません。と言うことで、私は敢えての「通常版」を選んでTOHOシネマズ日比谷のSCREEN8をチョイス。平日11時からの回ですが、小さい箱のため席数は多くはないこともあってなかなかの客入りです。
1980年代、私が住んでいた埼玉(東部)ではちょいちょい見かけることのあった、モルモン教徒による街中での宣教活動。当時は「アナタハ、カミヲ、シンジマスカァ?」なんてギャグもあった記憶があります。などと、冒頭から脱線しまくりですみません。本作、始まって早々にベンチに腰掛ける若い女性二人の話題は「コンドーム」。実は二人はモルモン教のシスターなのですが、宗教関係について門外漢な私でも何となく知っている「モルモン教における厳格な規律」に対し、この「今時」を思わせる二人の会話があるからこそ、と観進めるうちに気づく「(本作への)巧い導入」になっています。
誰一人まともに相手をしてくれず、疲れも相まって凹み気味な二人の宣教活動。いよいよ日も沈みかけ、さらには雨も降りだす中、ようやくに辿り着く「とある一軒家」。意を決して扉を叩けば中から現れた男性・ミスター・リード(ヒュー・グラント)は感じがよく、「妻もいるから」の言葉についつい気を許して家に上がるシスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)とシスター・パクストン(クロエ・イースト)。ところが、なかなか本題に切り出させないばかりか、意図不明で素っ頓狂な質問ばかりしてくるミスター・リード。出来るだけ誠意をもって回答をしようとする二人ですが、ミスター・リードの強引或いは屁理屈とも言える論理に言いくるめられ、話はいつしか二人の「信仰心」を試されるような問答になって戸惑いを隠せません。そして、なかなか姿を見せない「妻」と不意に見つける「あるアイテム」に最早抗うことの出来ない不信感で、その場から逃げ出すことを画策する二人なのですが…。
思いのほか「会話劇」の要素が多い本作、宗教についての基礎知識や慣習を持ち合わせないで観ると、残念ながら解らないことが多いことも否めず、謎めいた家の構造を活かした「動き」が出てくる中盤まではまあまあな集中力が試されます。とは言え決してつまらないことはありませんし、全てがミスター・リードの「罠」にしか見えないギミックと展開に対し、二人のシスターが「切り抜けるなんてことが可能なのか?」と絶望に近い状況に、それぞれのキャラクター性を活かして困難に立ち向かうアプローチは面白く、中盤以降は終始目が離せなくなります。
そしてしっかり「A24らしさ」を裏切らない終盤の展開、からのその顛末に「何とも言いようのない」気持ちでエンドロールを遣り過ごし、帰途に就くやや蒸し暑い午後。映画の内容同様に「逃げ出すことの出来ない」劇場鑑賞だからこその「いい余韻」で満足の一本でした。
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