「貧乏人のためのアートだからこその輝き」ヒプノシス レコードジャケットの美学 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
貧乏人のためのアートだからこその輝き
昔は「ジャケ買い」というレコードの買い方があった。レコードジャケットがカッコよくて、バンドも曲も知らないのに買う手法。聴きながら眺めたり、部屋に飾ったり、レコードジャケットってちょうどいい大きさのアートなんだと思う。「貧乏人のためのアート」とはうまい言いようだ。
デザイン集団ヒプノシスの誕生と終わり、そして彼らが手がけたアルバムジャケットの制作秘話が語られるドキュメンタリー。すべてのアルバムを知っていたわけではないが、結構知っているジャケットが出てきてなぜ嬉しくなる。ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリン、ポール・マッカートニーあたりが多めだが、10ccも意外と多いことに驚いた。
意図的にアルバムのタイトルとは関係のない、意味のないアートワークを提案するヒプノシスはすごいが、それに決めるバンド側の勇気もすごい。実際それでロック史に残るジャケットになったのだから。興味深かったのは、ヒプノシスがボツアイデアを使い回していたこと。そりゃそうだ。デザインの世界ではよくあることだと思うがなんか笑ってしまう。個人的にいろんなレコードジャケットが好きなので楽しめる映画だったが、若い人たちにはどうなのだろう。思い入れのないドキュメンタリー映画はひどくつまらなくなる気がする。
レコードからCDにメインのフィジカルが移り変わり、今や配信でしか音楽を聴かないことが当たり前になっている状況。ノエル・ギャラガーが話していた娘とのやり取りが今の世代の感覚なのだろう。とてもさみしく思ってしまうが、それも仕方ない。そういう意味でも貴重な映画だと思う。
コメントする