劇場公開日 2025年4月4日

「定点カメラが紡ぐある場所の記憶」HERE 時を越えて kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5定点カメラが紡ぐある場所の記憶

2025年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

斬新

 ロバート・ゼメキス監督の実験的な作品。
ロバート・ゼメキスといえば時間を旅するSFの傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の監督だ。その監督が今回も時間を旅する作品を作った。
ただ、今回は目まぐるしくシーンを展開する映画ではなく、一箇所にカメラを固定し、何世代もの家族を撮影し続けるという定点観測映画だ。

 主演は「フォレスト・ガンプ」でゼメキス監督と組んだトム・ハンクスとロビン・ライト。共同脚本もエリック・ロスというフォレスト・ガンプチームが再集結した。

 舞台は米国のある場所。太古の恐竜時代から先住民族の時代、植民地時代からそこに家が建ち、いくつもの家族が暮らす現代までの時代を同じ場所の定点カメラで映し出す。
メインとなる物語は第2次大戦後にある夫婦がこの家を購入し、その息子リチャード(トム・ハンクス)が生まれてからの話。彼は若くしてマーガレット(ロビン・ライト)と結婚し、娘が生まれ家族の歴史が紡がれていく。

 この映画の特殊な形態を聞いたとき、カメラを固定しシーンが展開しないと飽きてしまうのではないかと心配した。結論を言うと飽きることはなかった。リチャードの家族を時間通りに追うのは流石に飽きるだろうが、この映画では太古の昔や未来がリチャードの家族の時間軸にカットインされるのだ。

 この映画の原作は大ヒットしたアメリカのグラフィック絵本。その絵本の見せ方を再現しているのだが、絵本と映画は別物だ。
映画のダイナミズムはシーンとカットを繋いで縦横無尽に動き回るカメラともいえるのではないか。カメラを固定し歴史を写すと言うのは斬新ではあるが、はたして映画として成功しているかといえば、いささか疑問だ。物語は同じ部屋でのエピソードのみなのでステレオタイプなアメリカの家庭の描写に終始してしまっている。

 ただ、60歳にも差し掛かった自分の歴史も重ね合わせてしまい、ラストは目頭が熱くなった。その意味ではこの斬新な試みは成功しているともいえる。
なお、ハンクスとライトは10代から老年までを本人が演じている。VFXの技術があってこそ可能としているが、演技はVFXではないので演じ分けは流石としか言いようがない。

kozuka