「全編同じ視点で描かれる実験的な映画ですが、」HERE 時を越えて ITOYAさんの映画レビュー(感想・評価)
全編同じ視点で描かれる実験的な映画ですが、
有史以前から定点観測カメラがとらえた、ある場所で繰り広げられた、いくつかの家族の物語。
全編「ほぼ」最初から最後まで同じ場所を撮影しただけという斬新さ。
原作本の発想自体が素晴らしく、それをそのまま映画にしようとしたゼメキスの実験映画的な精神は健在。
同じフレームでカメラが一切動かないのに、画面内のビジュアルの工夫で面白く観れるのがさすが。
時系列がたびたび変わって、住人とその人生を理解するのは、せわしないが。
さらに、話の中心となる主演の二人、トム・ハンクスとロビン・ライトの「フォレスト・ガンプ」コンビが、CGで青年期から老人まで演じている。
顔が、ちょっとのっぺりしてるかもしれないが、結構自然で、特に、トム・ハンクスは、若い頃の映画を思い出してました。
仕掛けにこだわっている分、出てくる家族の話は、簡単でどこにもある話。
(誰もが共感できるとも言う。)
次第に、映画が同じ場所しか撮っていないことと、ハンクス夫妻が家に縛られていることがリンクしてくる。
娘に読み聞かせた絵本にあるように「ぼくたちはここが好きだ。」と言い聞かせて、同じ家に縛り付けられた人生。
今回も、保守的で家にとどまったトム・ハンクスに反して、家を出ていったロビン・ライトは、自由を得るが、すでにボケが始まっているという不憫さ。
「フォレスト・ガンプ」でも、保守的なハンクスは安定してたのに、行動的なライトは散々な目にあってたことを思い出す。
ゼメキスって男性上位主義か、めちゃくちゃ保守的なのだろうか?
終盤、家具の鏡にカメラ側のキッチン?が映ったかと思いきや、ライトが昔を思い出すシーンでは、唯一、カメラがこれまでとは逆の方向を映した時、とってもとっても解放された気がしました。
これまで一方向しか観れていなかったために、息苦しさを感じていたのだと、まるでその時の彼女の心境のようで、これまで映画で経験しなかったことを初めて経験したのでした。
なるほど!監督が伝えたいことが長年にわたる「家」に縛られた人生からの解放と考えると、長く厳しく眠たい苦行があるからこそのラストシーンにつながるわけですね。飛び回るハチドリも自由を象徴しているのかもしれませんね。