「ザ・傾聴の姿勢」邪悪なるもの Tiny-Escobarさんの映画レビュー(感想・評価)
ザ・傾聴の姿勢
悪魔憑き+パンデミックという、盛りだくさんのホラーでした。
全体的に怖がらせ方はアルゼンチン流で、ハリウッド系ホラーのジャンプスケアや、Jホラーの『お分かりいただけただろうか』とは、全く違いました。
ジャンプスケアの代わりにコンマ五秒で暴力に切り替わるし、お分かりも何も、大抵のことは目の前で起きていた感じです。
特に、マスチフ犬とヴィッキーの場面では、私と隣のおじさんは座席から数ミリ浮いたと思います。
現実と地続きのようで、教会が役目を終えたという設定があり、悪魔憑き=感染症のような扱いです。それほど頻度が高くないのか、警察も『悪魔に憑かれた』という通報から一年ぐらい放置したり、積極的に触れようとしません。
放っておいたら朽ちて終わるんじゃね? みたいな扱いです。
興味深かったのは、主人公の母親が『都市の病気でしょ?』と言っていた辺りでした。
どことなく他人事で、実際本編で起きることのほとんどは、悪魔という存在を抜きにしても動物や人間の行動でそれとなく説明がつく辺りが、巧みでした。
・森の中で起きた猟奇殺人
・斧で刻まれた農場主とその妻
・子供を連れ去りに来る厄介者の元夫
・手懐けていたはずのマスチフ犬に顔を食いちぎられる子供
・元夫から子供を連れ戻したら、元夫の弟に車で轢かれる元夫の嫁
どれも、ニュースで一度は記事になったことがあるような出来事です。悪魔と思うから怖いのであって、現実にみんな共存しています。
加えて、悪魔に憑かれた人間に近づいてはならない、着ていた服に触ったりしてもいけないなど、こういった設定の塩梅は、どことなくコロナ禍の初期を彷彿とさせます。何より、この映画の悪魔には対処法があり、ルールもあります。
とは言え、接触してはいけないと分かっていても声をかけてしまうし、自分だけはルールから逸れたことをやってしまう。親しい相手だったり、自分がど真ん中に放り込まれたりすると、やっちゃいけないことをやってしまうものです。
でも、ペドロ。
あんたはもうちょい 人の 話を 聞け(笑)
どのコミュニティでも「厄介な人」扱いを受けている辺りが、リアルでした。悪気はないけど、突っ走りすぎて周りが酷い目に遭う。私の周りにも、こんな人はたくさんいます。
個人的には、ウリエルと戦うときに、首の後ろに刺せと言われていたダガーナイフ?を探すのではなく、手近な別の部品で頭をタコ殴りにする場面が好きです。
関西弁ではこういうとき「ちゃうて」と突っ込みますが、半年分の在庫を一本の映画で使い切りました。
結局悪魔の子供が誕生してしまい、「サンキュな」みたいな感じで頭に手を置かれたり、結果は散々。フルパワー往復ビンタを食わせたばかりの子供が「斧はあっちよ」って、言うわけないでしょうが。
それに、車で眠るジャイルから出てくる絵は、赤色に塗られた人型が朝日に照らされているという構図で、あれこそまさに悪魔の子供が誕生する瞬間の予言なのに、「ほーん」みたいな感じで眠ったり。もうちょい、周りを見ろと。
設定は凝っていますが、完成するのに五分かかるラーメンなのに、ペドロが三分で食べ始めた感じでした。