「配給会社に感謝!」オークション 盗まれたエゴン・シーレ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
配給会社に感謝!
ナチス・ドイツによって退廃芸術と見做され、1939年に喪われたエゴン・シーレの「ひまわり」の再発見をめぐって、実話をもとに紡ぎ出された物語。
再発見されたのは、フランス東部のミュルーズと聞いて、まず思い出されるのは、バーゼル・ミュルーズ空港、そうなのだ、この地はアルザスに属し、スイス、ドイツとの国境に近く、特にこの空港はバーゼルとも直接つながっていることで知られている。ドイツのフライブルグにも近く、その地で「ひまわり」が見つかったことに意味があるのだろう。そのせいか、映画でも、飛行機の飛ぶ姿が何度か出てきた。なんと言っても、ミュルーズはフランス鉄道博物館、国立自動車博物館(この映画で出てきた)で知られている工業都市、その化学工場で夜勤の労働者をしている若者マルタン・クレールの家で、その絵が見つかったと言うわけだ。
ただ、ゴッホのひまわりの影響と言っても、ゴッホのひまわりは、アルルで友人の到着を待ち侘びて描かれたものだけでなく、やや暗い色調のものもある。またシーレには、恩師クリムトの影響もあるに違いない。クリムトは、その比較的初期に、庭に花が咲き溢れる風景をたくさん描いている。
見つけ出されたこの絵が、エゴン・シーレの真作と鑑定したのは、パリのオークション・ハウスで働く競売人アンドレ・マッソンと、彼の元妻でシーレの専門家であるベルティナ。ただ、それから一悶着あり、なんと新米の研修生にすぎない、しかも少し変わったオロールの助けにより、無事、オークションにたどり着く。
そういえば、この映画の中には、地方出身者が(アンドレはションリュプト・ロンジュメール、オロールはモントーバンの出身)貧困もあったのだろうけど苦労したり、鑑定人のお得意には、あからさまに黒人を差別する老夫人がいたりする。
それにしても、これだけの内容を91分で理解するには、美術やフランスとドイツの歴史などの知識も、ある程度は必要だろう。今でもフランス映画の半分近くは、90から100分で、入れ替えを考えると、(午後4時、6時、8時、10時の)定時に映画館で鑑賞が可能、でもこれ以上長いと大作で料金も高くなったりする。池波正太郎さんが、いつもあと10分切ったらもっと良くなると言っていたのは、このことだろう。少し前だったら、エール・フランスの機内で見るくらいしかできなかった普通のプログラム・ピクチャーをミニシアターで観られるなんで、配給会社に感謝したい。