「オノマトペによって紡がれる美しい言葉の世界」美晴に傘を Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
オノマトペによって紡がれる美しい言葉の世界
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息子との確執から抜け出せず素直になりたいのになれない父、美晴を守ることに精いっぱいで自分自身を縛りつけてしまっている母、姉の世話をすることで周りに気を使ってばかりのヤングケアラーになっている妹、不快な音の世界から逃げ出しているがそこにもどかしさをも感じている美晴。
登場人物たちは一様に何かに縛られているが決してそのままでいいとは思っていない、そんなアンビバレントな感情は、美晴のイヤーパフによって音が遮られる世界と町内の騒々しい人々の生活の対比にも象徴されているように思える。そして、騒音の雨から身を守る傘を美晴が手放して一つ一つの音に耳を傾け始めると、ようやく周りの人々も自分に素直になり始める。
父親の三雄が残した絵本のように、美晴の心情は彼女が紡ぎ出すオノマトペで表現されていく。そこに俳句や書道といった日本の言語表現がちりばめられることで「ことばの世界」が構成されていく。
希薄な人間関係の中でことばの重みが薄れ、SNSにはことばの暴力があふれている現代において、人の気持ちを前向きに動かしていく「ことばの力」を改めて信じさせてくれ、気持ちを温かくしてくれる美しい作品だ。上映館数が増えてより多くの人に届いて欲しい。
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