「恐怖の表現は色々と... 悪夢まで見るのは一つだけ?」ストップモーション Paula Smithyさんの映画レビュー(感想・評価)
恐怖の表現は色々と... 悪夢まで見るのは一つだけ?
ストップモーションアニメーションと実写映像を合体させた先人であり伝説的かつ巨匠がいる。数々の映画賞の最高峰を獲得したヤン・シュヴァンクマイエルという人。何と御年90才。本作『ストップモーション』でもアーマチュアに使わていた生肉... その生肉がダンスをするモノフィラメントが見えてしまっていた彼の作品の1分程度の映画『Meat Love』。その映像が彼の長編作品『Little Otik』に CM として登場している。さらにこの短編はMTVでも放映されていた。
本作はというと...
ストップアニメーションの製作者の中でもレジェンドであり、人形の動きの0.5ミリの微細までもこだわる完璧主義者でもある主人公エラの母親スザンヌ。スザンヌの体が思うように動かなくなり、母親の苛立ちからエラとの関係が微妙にイタイものになっていくのを場面から感じ始める... その様子はエラのセリフから手に取るように
Her hands are getting worse. I promised I'd help her
finish this last film. So, she's the brains, and
I'm the hands.
・・・・・・・(略)
I don't have my own voice. (※意味深?)このセリフは本作のバックボーン的存在となっている。
その事は...
本作を見続けていくうちに彼女は自分自身の想像力や創造力の欠如から何も作れないことで最初は、母親の、そして母親が倒れてからは、同じアパートに住む謎の少女(Jane Doe)の言いなりとなるパペットでしかなくなる。その決定的な母親のセリフ...
You can't control anything.
You're a puppet... caught in your own strings. And if it
isn't me pulling them, it's somebody else.
しかし、「想像力や創造力の欠如から何も作れない」とエラの事をそのように例えたほどあまり平々凡々とした関心もない映画と思っていると映画は最後まで見てみないと分からないモノですね!?
気管切開をしているのに何故か?ハッキリと話す母親や謎の少女の存在が、すべては虚構を構築した彼女の創造力からであると思えた途端に、エラの不快な人形たちの間に深く不安な深淵を生み出している暗い気色の悪いホラーと思っていたのが、人形の目が単純な穴から丸めた粘土のボール、そしてリアルな目へと進化したのと同じようにエラが自分が人形なのか人間なのかを錯誤し始め、入れ替わり始める。ラスト近くになると端正な顔立ちのエラが人が変わったように髪を振り乱しながら豹変し、それにパワーアップしたゴア表現にグロテスクさがミックスされて血みどろで並みの気色の悪さだったものが、次元を超え突き抜けてしまっている。だからその反動で大ラスは、とても言えない程の虚無感が襲い掛かりますってか?
Lynch himself often stating that the factor of sound is
50 percent of each of his films.
個人的にはあまり好きではないデイヴィッド・リンチ監督。その監督がサウンドの重要性を挙げていたけどその事は本作のフィルム・スコアにも言えて、大げさで派手ではない上に映像を邪魔しないことが反って恐怖心を倍増させていた。それに加えてアシュリン・フランシオーシという女優さんが以前に鑑賞した映画『ナイチンゲール』では、ギリシャ神話の復讐の女神エリニュエスのような強い女性を演じていた彼女が本作での感情失禁をするシーンでは、これまた凄いとしか言いようがないけど、フィルム・スコアと同じように主演女優を邪魔をしない謎の少女役のケイリン・スプリンゴールのある時は無邪気にそしてある時は冷めたような大人びた演技はピカイチでこの映画を盛り上げていらっしゃいました。
Great artists always put themselves into their work.(謎の少女のお言葉)
一番難解だと思わせる締めくくり方とは...!?
The Ash Man comes three nights.
実写の部分とストップモーションの部分、それにエラがドールとなって没入してしまう虚構のドールの世界... それらを組み合わせるために撮影後、監督は編集のためにロンドンにあるスタジオから自宅まで時間をかけて帰り、編集を続けたと... その工程において並々ならない時間をかけたと聞く。
最後に彼女の居場所は...
やっと眠ることのできる安住の地なのか?それともやりきれない程、誰にも邪魔をされない為に部外をシャットアウトした悲劇的孤立した住み家なのか? ご覧あれ!?