配信開始日 2024年12月4日

「プロダクションデザインは良い」幸せの列車に乗せられた少年 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5プロダクションデザインは良い

2024年12月13日
iPhoneアプリから投稿

第二次世界大戦下のイタリアを舞台に、
荒廃した南部都市と緑豊かな北部の対比、

登場人物たちの衣装や楽器に至るまでの細やかなプロダクションデザインは、素晴らしい。

しかし、この素晴らしい映像美とは裏腹に、
その演出には大きなギャップを感た。

シナリオ的には劇的なシークエンスが序盤から繰り返し登場するものの、
その演出が観る者の心に響いてこない。

母親との別れ、
バイオリンをプレゼントされた時の気持ち、
そして北部での少年の葛藤、
友だちとの再会など、

シナリオには感情を揺さぶる要素が満載されている。

しかし、これらの場面が単になぞられているだけで、
観客の心に刻み込まれるような感情的な共鳴が生まれていない。

例えば、母親からの手紙のシーンは、
少年の心の変化を描き出す重要な場面、
その心情が十分に表現されていない。

また、デルナたちの怒りや、
南部の故郷への郷愁なども、
もう少し丁寧に撮ってほしかった。

ケネス・ブラナーの「ベルファスト」でも指摘した。

感情を繋げる【間】の状況作りとカット割りの不足、
シナリオに書かれていることを単に映像化しているだけで、
登場人物たちの心の動きを観客に伝えるための工夫が足りない。

特に、トンマジーノやマリウッチャとの再会の場面は、
まるで毎日会っていたかのような唐突な展開だった。

ただし、

ラストシーンは、登場人物たちの気持ちがしっかりと伝わってきた。

そして、EDロールで映し出される当時の子供たちだろう、
屈託のない笑顔が、
陰影で縁取りされて、
観客の心を温かく包み込んでくれる

蛇足軒妖瀬布