満ち足りた家族のレビュー・感想・評価
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あらすじにある兄弟の前提に違和感
あらすじ解説にはこうある。
「ジュワンは道徳よりも物質的な利益を優先し」「一方、常に道徳的で良心的が信条の弟のジェギュは(略)痴呆気味になった母の介護にも献身的だ」
でも映画見たら違うとすぐ感じた。兄は物質的な利益を優先しているわけではなくて弁護士として合理的に行動しているだけ。弟は道徳的で介護にも献身的というわけではなくて世間体を気にしているだけで、子どもや母親のやっかいごとは妻に押し付けているだけ。
この構図がすぐ明らかになるので、終盤に向けての展開も読めてくる。そういう意味では予定調和に感じてしまった。でも全体としては面白い展開に仕上げているし子どものろくでなし感も良かった。見て損はないとは思います。
あ、あとチャンドンゴン親子が似てなさすぎ。
正義と畏怖
実に、後味が悪い
すれ違う、入れ替わる
ドストエフスキー、キューブリック
カラマーゾフの兄弟の罪と罰と時計じかけのオレンジ。
英題は「A Nomal Family」
「こどもたちを〈守る〉親たち」
本作は母親、継母、兄、弟という異なる価値観を持つ4人の大人たちが、
それぞれの方法で子供たちを「守ろう」とする姿を描く。
母性の愛、自主性を重んじる継母、法の力、そして誠実さ、
これらの多様な価値観が衝突し、家族という枠組みを揺るがしていく。
本作の最大の特徴は、その高度なシナリオ構造にある。
いわゆるセカイ系とメタ構造を巧みに組み合わせることで、
観客は物語を俯瞰し、
登場人物たちの行動の裏側にある心理を読み解くことができる。
弁護士の兄の家で赤ちゃんのオムツ交換、
医者の弟の家で老婆のオムツのオムツ交換、
だれもが経験した、なおかつ、経験する、
記憶にない、なおかつ、認知できない、
象徴的な描写は、単なる比喩を超えて、
それぞれの家族が抱える問題の本質を暗示しながら、
それらを韓国映画特有の十字架が包み込む。
さらに、被害者と患者を共有するという設定は、
登場人物たちの関係性を複雑に絡み合わせ、
物語の展開を予測不可能にする。
チャン・ドンゴンとソル・ギョング、
過去の作品のイメージであれば、
論理的な弁護士の兄はチャン・ドンゴン、
感情的な医師はソル・ギョングだが、
(ソル・ギョングが両方できるは言うまでもない)
その役割を反対にしてきたのも興味深く、
後々その意味も腑に落ちるしかけになる、
その役割を二人ともしっかりと具現化した、
シナリオに負けない丁寧な芝居をしている。
彼らの対比は、物語のテーマでもある、
善悪、理性と感情といった対立を鮮やかに浮き彫りにする。
【蛇足】
近年、子どもが弱者を襲う事件が報道されることが増え、
社会に大きな衝撃を与えている。
映画史でいうと、
キューブリックの「時計じかけのオレンジ」がその象徴的な作品として有名だ。
キューブリックは、その世界観の構築を、
機能重視の衣装や美術、人工的なビジュアル、
そしてベートーヴェンの音楽を駆使して、
現実とは一線を画した虚構の空間をつくった、
いわばSFの括りの狙いもあったのだろう。
これにより、観客は登場人物たちの暴力や異常な行動を、
現実の延長ではなく、独自のフィクションとして体験していた。
しかし、本作は、あるいは昨今の作品は、
そのアプローチを大きく異にしている。
本作はチャンネル争いやファーストフードといった、
私たちが日常的に目にする場面や小道具を通して、
現実と密接に結びついた世界を描き出す。
「虚構」の中で何か異質なものを見出すのではなく、
私たちが実際に生きている社会に潜む不安や断絶を照らし出すことに焦点を当てている。
英題「A Normal Family」に込められた意味は、
まさにその「普通」や「満ち足りた」家族という前提に潜む不完全さ、
足りない何かを問いかけるものであろう。
「満ち足りた家族」において、
家族は一見して完璧に見えるが、何かが欠けている、
それは、物質的には満たされているが、
精神的な豊かさや他者への共感、
または社会全体の健全性において重要な何かが欠けていることを示唆している。
この点において、ドストエフスキーの作品やキューブリックの映画に通じるが、明らかに違うテーマが浮かび上がる。
時計じかけでもない、異常な愛情でもない、
〈満ち足りた普通〉だ。
天秤が
下手なホラー映画よりも怖い
揺れ動く実利と道徳
楽しんで観る映画、、、ではない。
トロントなど多くの映画祭や映画賞で高い評価を受け、また米国の映画レビューサイトでも評価が高い本作。ソル・ギョング、チャン・ドンゴンの競演も楽しみにTOHOシネマズシャンテへ。ですが、会員サービスデイの9時40分からの回は思いのほか寂しい客入りです。
最初に断っておきます。あくまで個人的な意見ですが、決して「楽しんで観る映画」ではありません。何なら、観終わってこのレビューを書くために映画を振り返るだけで、腹立たしかったり、気持ちが落ち込みます。とは言え、それだけ印象に残るという意味では「映画として優れている」と言わざるを得ず、甚だ複雑な気分ながら悪い点は付けられません。
なお、本作の英題『A Normal Family』は原題『보통의 가족』そのままの直訳(注・あくまで字面として)。一方で邦題『満ち足りた家族』はこれを「普通」とすることに距離を置いているような気もします。ですが、このストーリーで起きる問題には「格差」が影響していることも確かで、題名の付け方だけでもいろいろと考えてしまう一本です。
兄シュワン(ソル・ギョング)とジェギュ(チャン・ドンゴン)はそれぞれ弁護士と医者であり、二人の暮らしぶりに差はあるものの社会的には共にエリート。お互いに思うところはあっても疎遠になることはなく、普段から顔を合わせていてしっかり交流を持っています。ある日も「母の介護」についてを本題として集まる兄弟と彼らの妻たち。そしてその隙をついて遊びに出かける彼らの子供たちが問題を起し、そこから事態が展開していくわけですが、、、
それぞれの立場で考えることは想像を裏切らず、だからこそ「尤も気」で丸め込まれそうになるものの、聞き進めれば誰の意見も行き過ぎていてみんな利己的。だからこそ一向に噛み合わず、ずっとまとまらないまま問題は棚上げされ続けます。身内がしたことに対する落とし前を「家族」「親と子」と言う関係性を言い訳にして免れようとしますが、結局のところ「自分ら(家族)の利害」しか考えておらず全てが胸糞悪い。そもそも、それについて話すのに「高級料理店での食事会」にする意味が解らんし。そこに「確かな倫理感」は僅か1ミリでも存在するのか?なんて、ずっとイライラしながらのラスト、観る前からすぐに「オチ」は判るのですが、映画に大事なのはその落とし方・・・あゝただただ空しい。。。からのタイトル、ドーン!はい、もう降参です。
いやはや、ちょっとナメてました。今回もまた「韓国映画」にしたたかに打ちのめされ、更に傷口に塩を塗られた気分。ホ・ジノ監督、もう勘弁してください。
親の役割
先週末公開の新作は観たいものが多くて時間が足りず、本作の鑑賞は迷いました。しかし、公開4日目時点で4.1の高評価を得ており、これは観ておかねばと、仕事をそそくさと切り上げて鑑賞してきました。後味はめっちゃ悪いものの、高評価に納得の作品でした。
ストーリーは、弁護士の兄ジェワンは、前妻との娘で高校生のヘウン、若くて美しい後妻ジス、彼女との間に産まれた赤ちゃんと高級マンションで優雅に暮らし、医師の弟ジェギュは、年上の妻ヨンギョン、高校生の息子シホ、痴呆気味の母と暮らし、ジェワンとジェギュは妻を伴って4人で毎月恒例のディナーをしていたのだが、ちょうどその夜、ヘウンとシホがある問題を起こしてしまい、これがそれぞれの両親を深い苦悩へと追いこんでいくというもの。
冒頭、あおり運転をきっかけにした事件が描かれます。運転していた男は、躊躇なく人をはねとばしながら、反省も後悔も全くありません。終わってみれば、このシーンが本作を最も象徴的に表していたように思います。と同時に、以降の重要な伏線になっています。
また、この男の弁護を担当するジェワンは、発言を巧みに誘導して裁判を有利に進め示談にまとめようとします。車内で重傷を負った少女を手術したジェギュは、母が手術代を払えないと知りながらも、必要な2回目の手術を同僚医師に指示します。これにより、金を優先する兄と、命を尊重する弟という構図が印象づけられます。さらに、それぞれの妻も、家事を家政婦に任せて自分磨きに勤しむジス、家族を大切にしながらボランティアに精を出すヨンギョン、と対照的に描き出します。
ところが、話が進むにつれ、この印象はだんだん変化し、最後は見事にひっくり返されます。そういう意味では、序盤の全てが重要な伏線になっていたとも言え、計算し尽くされた立ち上がりの描写に驚かされます。
本作では、このように4人の親の印象が大きく変化するのですが、それほど人の本性は捉えにくいということでしょう。また、心の中にはさまざまな思いがあり、それは何かをきっかけに右に左に大きく傾くのでしょう。親たちが我が子かわいさから間違った判断を重ねていくのは十分に共感できます。本当は人として正しい選択が何であるかはわかっていたはずですが、親としてはそれを選べず、我が子と我が身を守ることを選んでしまったのでしょう。しかし、そういう親だから、子どもたちも大切なものが欠けたまま成長してしまったのかもしれません。
人は弱いです。簡単に流されてしまいます。だからこそ、そばで誰かに正しく支えてほしいです。そこに親の役割があるように思います。子どもを正しく導くのは本当に大変なことです。でも、それを通して、親も成長していくのでしょう。終盤、ジェワンの心境に変化が見られます。実の親でないジスの言動と子供部屋の監視カメラがきっかけだったと思われます。どちらも全体を俯瞰し、客観的な視点を与えてくれるものです。とかく自己中心的な考えが蔓延るようになった現代だからこそ、自身の言動を客観的に見つめることが重要なのだと思います。そういう意味では、まさに本作はその一助になっていると言えます。
それにしても韓国映画は、あいかわらず人の醜い部分を容赦なく抉り出して見せつけてきます。また、その見せ方も絶妙にうまいです。同じテーブルで食事しながらスマホしか見ない家族、ディナー中のギスギスした会話、窓辺で虫を指で押しつぶす息子、手を上げそうになるジェギュに痴呆気味の母が投げかける言葉、犯罪隠蔽を正当化するヨンギョン、路上生活者の死亡連絡を受けた時のそれぞれの反応、自分の意見を通すための激昂と脅迫など、人の闇が垣間見える描写がそこかしこにあります。そして、その全てに現実味がありすぎて暗鬱となります。
ラストはなんの救いもないですが、それこそ一人一人がどうすべきかを自分の頭で考えろという、強いメッセージなのかと思います。
キャストは、ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キムら。
人間の本質に問いかける
リメイクしたらオスカーも?
やりすぎぃ! 人間、家族の愛憎詰まりすぎ。 第三者としてと当事者と...
韓国映画の駄目人間描写の上手さはなんなのか
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