「自分を守っていたはずの盾は、いつしか自分を刺し殺す剣に変わり果てていた」満ち足りた家族 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
自分を守っていたはずの盾は、いつしか自分を刺し殺す剣に変わり果てていた
2025.1.21 字幕 TOHOシネマズ梅田
2024年の韓国映画(109分、PG12)
原作はヘルマン・コッホの小説『The Dinner(邦題:冷たい晩餐)』
子どもたちの行動によって右往左往する大人を描いたスリラー映画
監督はホ・ジノ
脚本はパク・ウンギョ&パク・ソンジュク
原題は『보통의 가족』、英題は『A Normal Family』で、ともに「普通の家族」と言う意味
物語の舞台は、韓国の京畿道
弁護士として成功している兄・ジェワン(ソル・ギョング)は、金のためなら犯罪者の弁護を買って出て、罪と罰を捻じ曲げることも多かった
彼には前妻との間に高校3年生になる娘・へユン(ホン・イェジ)がいて、後妻・ジス(クローディア・キム)との間にも赤ん坊・サランを授かっていた
また、ジェワンの弟・ジェギュ(チャン・ドンゴン)は小児外科医として働き、多くの命を救ってきた
彼の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)もNGOに所属してボランティア活動に専念し、二人の間にはへユンと同じ歳の息子・シホ(キム・ジョンチョル)がいた
へユンは時折シホに勉強を教えるのだが、彼女の影響はそれだけにとどまっていなかった
ある日のこと、相談を目的としたディナーが開かれ、ジェワン夫婦とジェギュ夫婦はともに高級料理店へと足を運んだ
ジェワンの提案は「二人の母(ビョン・ジュンヒ)」を施設に入れるとのことだったが、これまで面倒を見てきたジェワンはその提案を受け入れられなかった
一方その頃、へユンはシホとともに大学生の飲み会に参加していた
へユンの連れジェイデン(パク・サンフン)たちが集う会で、未成年ながらも飲酒を勧めてくるような集まりだった
物語は、この翌朝に「ホームレス(イ・ションシク)殺害事件」が発覚するところから動き出す
目撃者によって暴行の瞬間が撮影され、それが瞬く間に拡散され、メディアでも取り上げられるようになる
ヨンギョンは動画の暴漢がシホと同じ服を着ていたことに気づき、本人に確かめるものの、彼は「違う」とだけ答えた
また、へユンも父に「友人のトラブル」として相談するものの、ジェワンも動画に映っている女の服装から、その人物が娘であると確信し、どうしたら良いかと考え始める
ジェギュは見逃せないと考え、ジェワンは揉み消したいと言う
本人たちは反省しているし、将来のある若者で、ホームレス殺人事件の犯人となるのは酷だと考えていた
だが、それは同時に自分たちが犯罪者の親にならないための保身であり、ジェギュはそれを看過できなかったのである
映画では、この正義と保身の関係が、ある動画の存在によって逆転する様子が描かれていく
それは、へユンとシホの様子をおかしく思ったジスが隠し撮りしたもので、そこでは事件をどのように起こしたかとか、どう立ち振る舞えば親が守ってくれるかなどを赤裸々に話している様子が映っていた
この動画によって、ジェワンは「更生させる必要がある」と考え、ジェギュは自身の患者のトラブルを持ち出して取引を考える
それでも折れないジェワンに対し、ジェギュはある行動に出てしまうのであった
最後まで救いのない話だが、この親にしてこの子ありと言う内容になっていた
正義の執行人でありながら、自分の欲望のために法を悪用するジェワンの娘は、父と同じように「未成年であること」を悪用して開き直っていく
人助けのためと医療現場で働くジェギュもまた、シカを撥ねても隠蔽工作に走り、シホも同じようにホームレスを引きずって隠蔽をしようとしていた
シホは「自分の行動が誰かを守っている」と勘違いしていて、自分以外の人間を見下しているし、善行について歪んだ考えを持っている
これはヨンギョンの影響が強く出ていて、彼女は自分の善行が悪行をチャラにできると考えていて、その歪んだ思想が見透かされていたとも言える
冒頭は煽り運転トラブルから殺人事件に勃発した案件で、人を轢くと言う行為がその後も何度となく「故意か過失か」と言う線引きに引用されていく
ジェワンはヒョンチョル(ユ・スピン)の弁護をする上で「過失」を強調するものの、被害者の妻(チュリ)は納得できずに裁判へともつれ込んでいる
ヒョンチョルは示談のために被害者に会って謝罪をしろと言われるものの、彼は父に示談金を上げさせて、自分の行動を改めようとはしない
この構図がへユンとシホにもあって、自分たちの特別さと言うものを利用しつつ、自らの欲望を満たそうとしているからタチが悪い
この映画に爽快感があるとすれば、へユンとシホが報復を喰らうことだが、映画はその方向には向かわずに、親の行動によって、更なる凶悪な事件へと発展することになった
結局のところ、親を利用しようとした子どもが親を失うことになり、これまでに享受できたものも全て奪われるようになる
へユンとシホの犯罪も明るみになるし、その証拠を握っているジスは二人はおろか、ジェギュもヨンギョンも許さないだろう
そう言った意味において、描かれてはいないものの、因果応報は果たされていくのかな、と感じた
いずれにせよ、かなり凝った構成になっていて、子どもの本性が明確になる部分はなかなか強烈なものがあった
冒頭から子どもたちの異常性は描かれているので、甘やかしたツケを払わされていることになるのだろう
勝ち組だと思える人々も、その過程によって、何かを蔑んでくれば報いを受けるし、数々の善行も一度の悪行で全てが無意味になってしまう
晩年を汚して相応の死に方をできない人を思えば、世の中は意外とまともに動いているように見える
だが、そう言ったところからも距離を置いて安全圏にいられる人がいるのも事実だが、そう言ったものにもメスが入るのが現代なのかなとも思う
現在進行形の様々な現実にも重なっていくものがあるので、人生を一瞬で終わらせるものには注意を払いつつ、その行動を起こさせる思想について深く考える必要があるのかな、と感じた