劇場公開日 2025年1月17日

「親の役割」満ち足りた家族 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5親の役割

2025年1月21日
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鑑賞方法:映画館

怖い

難しい

先週末公開の新作は観たいものが多くて時間が足りず、本作の鑑賞は迷いました。しかし、公開4日目時点で4.1の高評価を得ており、これは観ておかねばと、仕事をそそくさと切り上げて鑑賞してきました。後味はめっちゃ悪いものの、高評価に納得の作品でした。

ストーリーは、弁護士の兄ジェワンは、前妻との娘で高校生のヘウン、若くて美しい後妻ジス、彼女との間に産まれた赤ちゃんと高級マンションで優雅に暮らし、医師の弟ジェギュは、年上の妻ヨンギョン、高校生の息子シホ、痴呆気味の母と暮らし、ジェワンとジェギュは妻を伴って4人で毎月恒例のディナーをしていたのだが、ちょうどその夜、ヘウンとシホがある問題を起こしてしまい、これがそれぞれの両親を深い苦悩へと追いこんでいくというもの。

冒頭、あおり運転をきっかけにした事件が描かれます。運転していた男は、躊躇なく人をはねとばしながら、反省も後悔も全くありません。終わってみれば、このシーンが本作を最も象徴的に表していたように思います。と同時に、以降の重要な伏線になっています。

また、この男の弁護を担当するジェワンは、発言を巧みに誘導して裁判を有利に進め示談にまとめようとします。車内で重傷を負った少女を手術したジェギュは、母が手術代を払えないと知りながらも、必要な2回目の手術を同僚医師に指示します。これにより、金を優先する兄と、命を尊重する弟という構図が印象づけられます。さらに、それぞれの妻も、家事を家政婦に任せて自分磨きに勤しむジス、家族を大切にしながらボランティアに精を出すヨンギョン、と対照的に描き出します。

ところが、話が進むにつれ、この印象はだんだん変化し、最後は見事にひっくり返されます。そういう意味では、序盤の全てが重要な伏線になっていたとも言え、計算し尽くされた立ち上がりの描写に驚かされます。

本作では、このように4人の親の印象が大きく変化するのですが、それほど人の本性は捉えにくいということでしょう。また、心の中にはさまざまな思いがあり、それは何かをきっかけに右に左に大きく傾くのでしょう。親たちが我が子かわいさから間違った判断を重ねていくのは十分に共感できます。本当は人として正しい選択が何であるかはわかっていたはずですが、親としてはそれを選べず、我が子と我が身を守ることを選んでしまったのでしょう。しかし、そういう親だから、子どもたちも大切なものが欠けたまま成長してしまったのかもしれません。

人は弱いです。簡単に流されてしまいます。だからこそ、そばで誰かに正しく支えてほしいです。そこに親の役割があるように思います。子どもを正しく導くのは本当に大変なことです。でも、それを通して、親も成長していくのでしょう。終盤、ジェワンの心境に変化が見られます。実の親でないジスの言動と子供部屋の監視カメラがきっかけだったと思われます。どちらも全体を俯瞰し、客観的な視点を与えてくれるものです。とかく自己中心的な考えが蔓延るようになった現代だからこそ、自身の言動を客観的に見つめることが重要なのだと思います。そういう意味では、まさに本作はその一助になっていると言えます。

それにしても韓国映画は、あいかわらず人の醜い部分を容赦なく抉り出して見せつけてきます。また、その見せ方も絶妙にうまいです。同じテーブルで食事しながらスマホしか見ない家族、ディナー中のギスギスした会話、窓辺で虫を指で押しつぶす息子、手を上げそうになるジェギュに痴呆気味の母が投げかける言葉、犯罪隠蔽を正当化するヨンギョン、路上生活者の死亡連絡を受けた時のそれぞれの反応、自分の意見を通すための激昂と脅迫など、人の闇が垣間見える描写がそこかしこにあります。そして、その全てに現実味がありすぎて暗鬱となります。

ラストはなんの救いもないですが、それこそ一人一人がどうすべきかを自分の頭で考えろという、強いメッセージなのかと思います。

キャストは、ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キムら。

おじゃる
めるさんのコメント
2025年1月21日

素晴らしいレビューですね👏👏
韓国映画、昔は食わず嫌いでしたが心理描写は本当に秀逸ですよね…この監督の作品はこれからもチェックしようと思います!

める