「【今作は二組の裕福な弁護士の兄、医師の弟の家庭が、彼らの子供が犯した或る出来事で良心の呵責と親心との狭間で葛藤する様を描く、シニカルサスペンスであり、物凄く嫌な気持ちになる逸品である。】」満ち足りた家族 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【今作は二組の裕福な弁護士の兄、医師の弟の家庭が、彼らの子供が犯した或る出来事で良心の呵責と親心との狭間で葛藤する様を描く、シニカルサスペンスであり、物凄く嫌な気持ちになる逸品である。】
ー 主演が、韓国の名優ソル・ギョングとチャン・ドンゴンである。監督は、名匠ホ・ジノである。
更にソル・ギョングは自ら脚本を読み込み気に入った作品しか出演しない方なので、迷わずに鑑賞した。-
■金のためなら、どんな悪人の弁護も引き受けるジェワン(ソル・ギョング)。再婚した若く美しい妻ジス(クローディア・キム)、亡くなった先妻の娘ヘユン(ホン・イェジ)と表面上はリッチな生活をしているが、妻は夕食を作らずラーメンばかり食べ、娘とはスマホを見ながら会話するだけである。
一方、弟のジェギュ(チャン・ドンゴン)は誠実な医者であり、妻ヨンギュン(キム・ヒエ)は義母の介護で疲れているが、一人息子シホ(キム・ジョンチュン)の成長のみが楽しみであり、溺愛している。
だが、ある日ヘユンとシホが路上生活者を虐待している動画がSNSに流れ、二組の家族は徐々に追い詰められて行くのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・冒頭、一台の車が猛スピードである車の前に停まる。車内から血相を変えた男が出て来てバットを持って車のボンネットを激しく叩くが、その瞬間その車は、一度少しバックした後に猛スピードで男を撥ね、車に激突し男の娘が挟まれて病院へ搬送される。物凄いイントロであるが、このシーンが後々効いてくるのである。
男を撥ねた髪を染めた若者は金持ちのボンボンで、反省した態度などないがジェワンは弁護士費用につられ、ボンボンの弁護をする。一方、ジェギュは娘を必死に助けようと手を尽くすのである。このシーンで、既に兄弟の表面的な生き方の違いが明瞭に描かれているのである。そして、これがホ・ジノ監督が仕掛けたモノである事が徐々に分かるのである。
・ジェワン夫婦とジェギュ夫婦は屡々、夕食を高級レストランで共にするが、二組の夫婦の冷え切った関係性が見えるのである。ジェギュはジェワンの生き方に、ユンギュンは自分より若い義理の姉ジスに対し、義母の面倒を見ている不満と嫉妬を交えた複雑な気持ちを持っている。
・ヘユンが、相当に甘やかされて育って来た事が分かる父親ジェワンに媚びた声で小遣いをねだるシーン。逆にシホは学校で苛められ、成績もパッとせずに塾通いを強制されている覇気のない少年だが、従妹であるへユンとは仲が良い事も描かれる。
■今作を象徴するシーン幾つか。
1.ジェワンが猪狩りで躊躇なく猪を撃ち殺す姿。
2.運転中のジェギュの前に鹿が飛び出し、フロントガラスに当たりにひびが入るシーン。物凄く驚くとともに、何故このシーンを入れたのか?と思うが再後半にその意味が分かるのである。
3.会食後、道路で送迎車を待つジェギュに向けて、酒を飲んでいる筈のジェワンが運転する車が猛スピードで走って来て直前で止まり、驚くジェギュに言った言葉。”お前は、車道に居た。この状況で轢かれたらどうなる?”
ー いやあ、不穏ですねえ。怖いですねえ。けれども、この作品ではこの3シーンが見事に後半の幾つかのシーンに連動しているのである。ー
・ヘユンとシホが路上生活者を虐待している動画がSNSに流れても、ヘユンは微塵も動揺しない。シホは動揺を隠せないが、その事実を母ヨンギュンに詰問されても認めないのである。
恐ろしいのはこの際のへユンの継母ジスに対する態度である。へユンには良心というモノが明らかに欠如しているのである。一方、親であるジェワンはへユンが事件時に来ていた服を焼却するようにジスに命じ、ヨンギュンは動画に映っているのは息子シホではないと無理やり言い聞かせるのである。
しかし、ジェギュはシホを警察に自首させようと車に乗せるのである。涙を流して止めるヨンギュン。そしてジュギュは親としての子を想う気持ちや社会的な自分の家の事を考えて、直前で止めるのである。
だが、路上生活者は手当ても空しく亡くなり、その情報を聞いたヨンギュンは、ほっとした表情を浮かべるのである。一方、ジェワンは路上生活者の貧しき母親に、雨の日に大金を無言で差し出すのである。
■そして、再び高級レストランでの会食シーン
ジェワンは、ジェギュとヨンギュンに”ヘユンを自首させる。それがあの子にとっても良いと思う。”と突然冷静な顔で言い、スマホを取りだしジスが産んだ赤子の声で自動録音できる機能で撮影したヘユンとシホが、赤子をあやしながらの会話を聞かせるのである。
そこでの二人の明るく話す会話の内容が恐ろし過ぎるのである。
”韓国人の平均寿命は84才なんだって。でも、路上生活者は46才なんだって。””じゃあ、もっと蹴って置けば良かったね。”
驚愕する、ジェギュとヨンギュン。
ジェギュは止めるように激しくジェワンの胸元を締め上げるが、ジェワンは動じない。そして、部屋を出て行くジェギュとヨンギュン。ジェワンは、冷静な顔で”食事を続けるか。”と言うが、ジスに”出ましょう。”と言われて、部屋を出るのである。
<そして、ジェワンとジスは車を待つが、”一歩、路上に出た”ジェワンは猛スピードで走って来たジェギュの車に撥ね飛ばされ、絶命するのである。
今作は二組の裕福な弁護士の兄、医師の弟の家庭が、彼らの子供が犯した或る出来事で良心の呵責と親心との狭間で葛藤する様を描く、シニカルサスペンスであり、物凄く嫌な気持ちになる逸品なのである。
そして、人間の真なる善性とは何かを、観る側に問い掛ける作品ではないかな、と私は思ったのである。>