「劇場では第2話までの上映でしたが、充分その世界観を堪能できました。やはりディズニープラスで続きが見たくなりましたね。」「SHOGUN 将軍」第一話&第二話 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
劇場では第2話までの上映でしたが、充分その世界観を堪能できました。やはりディズニープラスで続きが見たくなりましたね。
真田広之が主演・プロデューサーを務め、ハリウッドのクリエイターたちとともに壮大なスケールで戦国時代の日本を描いた、ディズニープラス配信のオリジナルドラマシリーズ。ドラマ界のアカデミー賞と言われる第76回エミー賞のドラマシリーズ部門で作品賞、主演男優賞(真田広之)、主演女優賞(アンナ・サワイ)など18部門を受賞するという快挙を成し遂げたことで大きな話題を集めました。この受賞を記念して、全6話のドラマの第1話と第2話を、2024年11月16日から全国の映画館で期間限定上映しています。
●ストーリー
天下を治めていた太閤の中村秀俊[豊臣秀吉](螢雪次朗) 亡き後、世継ぎの八重千代[豊臣秀頼]が元服するまでの政治を任された「五大老」のひとりである戦国武将の吉井虎永[徳川家康](真田広之)は、覇権を狙うほかの五大老たちと対立し、包囲網を徐々に狭められていました。大阪城に蟄居させられて、石堂和成[石田三成](平岳大)から切腹を言い渡される寸前に追い込まれていたのです。
そんなある日、イギリス人の航海士ジョン・ブラックソーン(按針)[ウィリアム・アダムス/三浦按針](コスモ・ジャーヴィス)は危険を顧みずに荒海を突き進んだ結果、日本の沿岸で難破し、虎永配下の樫木藪重[本多正信](浅野忠信)の伊豆の領地へ漂着します。虎永は、家臣である戸田文太郎広勝[細川忠興](阿部進之介)の妻で、キリスト教を信仰して語学にも堪能な戸田鞠子[細川ガラシャ](アンナ・サワイ)に按針の通訳を命じます。按針と鞠子の間には次第に絆が生まれていき、按針を利用して窮地を脱した虎永は、按針を侍の地位に取り立てることにしますが……。
●解説
《脚本》
原作は、1980年にもアメリカで実写ドラマ化されたジェームズ・クラベルのベストセラー小説「将軍」。
脚本では、1980年の『将軍 SHŌGUN』のようなハリウッドチックではなく、細部にこだわり、現代人に日本の文化が伝わるような脚本にするため、1年以上を費やしたそうです。また真田には当初、主演を依頼したものの、後にプロデューサーとしての参加をも要請しました。最初の脚本段階では英語、それを日本語に直訳し、別の脚本家が時代劇の言い回しに書き換える、さらに英訳し直して字幕をつけるという手間のかかる作業が行われたのです。
そのため劇中の時代劇の言い回しは完璧でした。むしろ江戸とか日本固有の古来の地名とか独特の所作を著す日本語の台詞をどう英語に訳せたのか心配になるほど日本人が鑑賞して全くの違和感を感じさせない時代劇でした。
《キャスティングと言語》
これまでハリウッドで制作された日本の時代劇作品は、役に最も適した俳優ではなく、英語が話せる日本人の中で最適な俳優を選ぶことになってしまっていましたが、英語を喋らなくてもよくなったことで、日本の錚々たる俳優陣のキャスティングを可能になったことは大きかったと思います。
その点、1980年の『将軍 SHŌGUN』は、台詞の大部分が英語で、日本語が出て来るときは「ブラックソーンの視点」だからという理由で字幕も付けず、アメリカの視聴者は日本語の台詞を「音響効果」のように聞かされたのです。『将軍 SHŌGUN』は、日本の戦国時代を舞台にしていながら、物語の焦点が過度に英国人航海士に偏っているとも評され、当時の日本文化を、オリエンタリズムの視線で誇張して描写している、という指摘もありました。
これに対して本作は、英国人航海士を演じたコスモ・ジャーヴィスを除くと主演・助演から端役に至るまでほとんど日本人が演じ、内容の展開も当時の権力者を中心としたものだった、と現地メディアは報じてます。台詞は70%以上が日本語で、映画上映では、英語の字幕もカットされていました。
『将軍 SHŌGUN』以外もこれまでハリウッドで日本の時代劇が作られたことはありましたが、台詞は英語が中心。ハリウッドでは台詞は英語だけか、英語に吹き替えをするのが半ば常識だったりです。総指揮のジャスティン・マークスはずっと真田と議論した結果、これまでの常識を破る英語がメイン言語ではない作品がハリウッド史上初めて実現することになったのです。
《美術・時代考証等》
真田広之は主演とプロデューサーも兼任しました。そこで真田は「日本人が見てもおかしくない日本を描こう」という原則にこだわったのです。真田は「誤解された日本を描く時代を終わらせたかった」と語り、エミー賞受賞時には「こだわったのはauthentic。私が演じた役は、歴史上実在する家康という戦国の世を終わらせた人物です。皆さんが思うSAMURAI(ハリウッドがこれまで描いてきたSAMURAI)とは違います。今回はオーセンティックにこだわりました」と述べました。
真田の原点とも言えるのが、時代劇の名作を多数生み出した京都の東映太秦映画村と東映京都撮影所です。本作は諸事情あってカナダ・バンクーバーで撮影されることになりましたが、真田は旧知の着物スペシャリストを東映京都から呼び寄せるなど、自ら美術、衣装、メーク、所作など、時代劇のあらゆる分野のスペシャリストを日本から招集。日本から多くのキャスト・スタッフが渡航し、日本流の時代劇作りに情熱を注いだのです。だから本作は日本人が見ても納得できる時代劇に仕上がったのです。
それだけではありません。真田ら製作陣が重視したのは、日本では時代劇と呼ばれる戦国ドラマを、究極のレベルに高めることでした。これまで日系と他のアジア系が混同されがちだったハリウッドの価値観に挑戦するかのごとく、真田はすべての日本人の役を、日本人、または日本にルーツを持つ俳優が演じるよう提案。キャスティングはこの方針の基に行われ、エキストラについてもカナダに駐在している日本人や日系人を起用したのです。また、登場人物の言葉使いから座り方などの細部にまでこだわり、舞台美術や小道具のスタッフも、日本の文化を理解している日本人を起用する徹底ぶりを見せました。撮影現場ではあらゆるディテールが歴史的、文化的にふさわしくなるように立ち振る舞いから、周りとの接し方など細かい所作まで演出指導が行われたのです。
これまでにハリウッドで描かれた日本は、日本人から見ると「ヘンテコ日本」としか言いようがない描写や舞台美術、衣装などで溢れ返っていましたが、『SHOGUN 将軍』がその方向を軌道修正し、大きくハードルを上げたとも評されています。海外のスタッフや出演者らには、日本の歴史や文化をまとめ日本を正しく理解してもらうための約900ページにも及ぶマニュアルを作成。撮影セットの畳には土足厳禁、ケータリングには日本食を用意し、衣裳の家紋の位置から、わらじの履き方、兵隊が持つ銃や槍を全員に右手で持たせたり、お城に農民を入れないようにするなど細かく指導したそうなのです。
真田は自身が出演しない日も撮影現場に通い、日本の文化が正しく描写されるよう指導したと言われています。常に現場にいて、衣装、小道具を注視していてスタッフから「いつ寝てたの」と言われるほど熱が入っていたそうなんですね。
また、不自然な日本の描写を正すために編集作業にも加わり、1年半かけてすべての編集、レコーディング、VFXを自身で確認したそうです。
2003年のトム・クルーズ主演『ラスト サムライ』で注目された真田は、ハリウッドに移住し、海外に軸足を移したものの、移住当時から「日本の武士道や、日本の時代劇をちゃんとハリウッドで表現することができない、俳優だけでは全てやり遂げられない、口出せないことも多い」と悔しがり、「誤解に満ちた日本人像が今まで結構多かった。僕たちの時代でそれを払拭したい」と願っていたと言われています。真田のたゆまぬ献身と努力が、ようやくハリウッドで報われたとも評され、エンターテイメント作品を通じて、日本大使的な役割も担う真田の集大成的な作品となったとも称賛されました。
本作の特徴は、基本スタジオ製作の大河ドラマを凌駕する巨大ロケセットを作り上げたことです。カナダ・バンクーバーに巨費を投じて城の内部や村のセットを建設。「丸ごと漁村を作ってしまうスケール感」に主演の真田も驚いたそうです。ドラマの主要背景がCGではなく、実写で撮られているところが、見ていて圧倒的なリアルティを感じました。
●感想
お察しの通り、虎永は徳川家康、ジョンは三浦按針、鞠子は細川ガラシャからインスパイアされた人物です。「時は来た! おごり高ぶった逆賊から、日の本を守らねばならん」と鼓舞する虎永は甲冑も衣装もいぶし銀のような渋め基調。真田はこれまでみたことがないほど老練かつ重みのある武将として登場します。若々しさとかアクションとかと、まったく違う姿は新鮮でした。
ただ今回の二話までのストーリーでは、どちらかというと按針を中心にドラマは展開します。その中核にあるのは、キリスト教布教の暗部の暴露にありました。後に家康はキリスト教を厳しく弾圧しますが、そのきっかけの情報をもたらしたのが按針だったのです。 実は按針はイギリス人であり、イギリスはプロテスタントの国として、ポルトガルやスペインといったカトリックの国々と対立していたのです。
当時宣教師を世界中に派遣させていたポルトガルやスペインは、表向きは布教といいつつ、宣教師たちを植民地化の先兵として使っていたのです。そして2国で世界を二分する協定を文書にして決めてしまっていたのです。日本はポルトガル領となっていました。
その証拠を握る按針は、何度もポルトガル側から命をを狙われることになります。虎永の聡明なことは、いち早くイエスズ会の宣教師たちに疑問を持ち、按針を匿ったことにあります。しかしこれまで訳士(通訳)を詰めてきたのが宣教師たちだったため、按針の言葉を訳せる者がいませんでした。そこに登場したのが宣教師から語学を教わった戸田鞠子だった訳なんです。鞠子の通訳で虎永はポルトガルの陰謀を知ることになります。国内には既に軍事拠点となるポルトガルの砦で作られていたというから、穏やかな話ではありません。
本作は今後虎永が大阪城を脱出しも関ヶ原の合戦で天下を取るまでが描かれるとは思いますが、当面は按針を軸にしたポルトガルvs虎永の戦いが裏のテーマとして描かれるものと思われます。きっと家康がなぜキリシタンを弾圧したのか納得されることでしょう。
劇場では第2話までの上映でしたが、充分その世界観を堪能できました。やはりディズニープラスで続きが見たくなりましたね。