劇場公開日 2025年1月24日

「you talkin’ to me? 綾波レイも言っていた」おんどりの鳴く前に 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0you talkin’ to me? 綾波レイも言っていた

2025年1月29日
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「視野が狭い田舎者、一人前の大人になれない」
この主人公の自嘲的なセリフは、
映画全体を、あるいは世界中の問題や、
本作の舞台であるチャウシェスク政権の崩壊も記憶に新しいルーマニア、

または現在のSNS上を貫くテーマを鮮やかに描き出しているのかもしれない。

短絡的で感情的な主人公は、
論理的な思考力に欠け、
周囲からも「一人前の大人」として認められない存在として描かれる。

そんな小さな田舎で発生した事件は、
主人公の内面を揺さぶる。

彼は被害者を悼み、心を寄せ、
そして行動に移す。

その行動には、計算や戦略、
野心や金銭的な目的といったものは見当たらない、

村の腐敗を正したいという思いもない。

もし、主人公が論理的な思考を持っていて、
村の在り方、政治等に興味があれば、

トラビス・ビックルのように、
「you talkin’ to me ?」と言ってたのかもしれない。

戦略的に事態への対応もできない、

ただ部下への悼みと隣人への痛みを共感する心だけが存在する。

悼みを、傷みを、行動に移せること。

それは、一見未熟に見える主人公が、
実は大人であることを証明しているとも言える。

感情に振り回されながらも、
正義感を持って行動する・・・

その一方、主人公は果樹園に興味を示す。

それは、彼の小さな純粋な気持ちが、
果樹園を生き返らせ、
その実が、土が、
チグリス・ユーフラテス川へと注ぐ一滴となるかもしれない。

その様子をじっと見つめるおんどりの姿は、
主人公の未来への希望を象徴しているのだろうか。

そしてこのおんどりが鳴く次の朝には、
この村には何が起きているのだろう・・・。

この映画は、人間関係において、
解決策を探るだけの論理的な思考力だけでなく、
感情や共感の大切さを教えてくれる。
(綾波レイとシンジの関係もそうだった)

主人公の一見短絡的な行動を通して、
私たちは「大人になる」とはどういうことなのか、
改めて考えることができるだろう。

蛇足軒妖瀬布