私の想う国のレビュー・感想・評価
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120万人抗議集会の市民の姿は圧倒的
チリの民主的な自由選挙によって選ばれたアジェンデ大統領が、時のアメリカ政府の露骨な内政干渉と軍事クーデターによって死に追いやられた1973年以降の圧政を粘り強く撮り続けて来たパトリシオ・グスマン監督が記録した現在のチリの姿です。
この数年でチリがこんなに変貌を遂げているなんて全く知りませんでした。生まれる子の73%は婚外子(それは、制度に縛られない婚姻を選んだ結果では決してない)、貧困の6割は単身女性、学校に行けない子供は床で勉強しているのです。そうして積もり積もった生活苦への怒りが、地下鉄料金値上げをきっかけに一気に噴き上がります。「政治は関係ない」「支持政党などない」と市民は語ります。まさに目の前の現実への憤りなのでしょう。120万市民が広場や道路を埋め尽くした抗議集会は圧倒的です。ドローンで観る群衆は、どこまで行っても尽きる事がありません。「沈黙するのは共犯者」の若者の声ががき渡ります。
そうした運動が史上最年少の新大統領を生み出した2022年で本作は終わるのですが、チリの苦難の現代史を描き続けて来たP.グスマン監督にしては珍しく希望を抱かせるエンディングでした。しかし、恐らく現実はそう容易には変革できないんだろうな。
女性と若者の力
わたしたちを裁く家父長制
チリの人口約1900万人のうち、120万の国民がデモに参加し、更に女性と若者がデモの中心だったということに大変驚きました。彼女たちは石を手に持ち花を頭に飾り詩を歌いながら闘っていて、こんなにカラフルでリズミカルな闘争映像を観たのは初めてです。
女性たちのインタビューがとても印象的で、彼女たちは貧しく希望の持てない現状を諦めて自宅に帰ることはできない、だからデモに行くしかないと言ってました。女性たちのインタビューを観ていると、過去の女性たちから現在の女性たちへ長年の痛みや怒りが時代を超えて引き継がれているように思います。
今までの闘争は結局は男性同士の権力闘争だったのかもしれないですね。なぜなら女性のポジションはまだまだ低いですし、女性たちを苦しめる家父長制度がそのままあり続けているからです。平等を求めるならばもっと女性の意思を取り入れませんか?
女性たちはリーダーを求めていませんでしたが、これが権力争いをする男性たちとは違うところですよね。今までは平等・権利を掲げた政党やグループの中ですら、意思決定ができるポジションに女性はほぼ付けなかったですから。
“もう家父長制(男性社会)には私たちのことを何も決めて欲しくない”
と、本作は私に語りかけてくるようでした。これはチリの女性だけの声ではなく、世界中の女性の声だと思います。もう老齢期の男性に権力を集めるのはやめましょう。
民衆が その心の熱さを忘れていない国 こういうことが起きないと国や...
民衆が
その心の熱さを忘れていない国
こういうことが起きないと国や政治が生まれ変わることがない
というのがいちばん悪い
ただの暴動に巻き込まれて家を焼かれたり
仕事を失った人のことを考えると
胸が痛む
ちょっと逸れるけど
軍用車が水を撒いて市民の後退を促すシーンを見て
1989年のあの国を思い出した
軍用車で無抵抗な人を轢く国のことを考えると、
チリの政府が少しだけまともに見えた
『そうだよ、水だよ!』と心で叫んだ
現体制を永続させるための邪悪なシステム
を破棄し理想とする国を創りたい。
と言う思いが起こした運動。
だと彼女たちは言う◎
だが、それはあくまでも彼女たちの立場からの言い分で
多分に偏りを孕んでいる。
が、イデオロギーが生み出したシステムの崩壊と
そのシステムの維持が未来を繋ぐとは思えない事態に
世界各国が陥っているのは事実で真実である。
と言うことは間違いない。
さらに言うと国家と言う概念も人類史上で言えば
そんなに古くからある概念ではなく
比較的近い過去に発生しており
随分と偏りを孕んだ概念だと言うことだ!
チリに限らず我が国のお隣、韓国でも
変調が響き始めた◎
我が国もそろそろ我が国らしい手法でリフレッシュを
測っていこうではないか!と
改めて思い噛み締めた作品
「想い」を物語る映像と音の魔力
この映画は、美しい。映像だけでなく「音」の美しさが重要。
インタビューを受ける女性たちの目や表情はそれぞれ生き生きと美しいし、デモや反対闘争のさ中に歌われる歌や、石・鍋・缶で抗議する民衆の身体の動き、躍動感も美しい。
地面に転がる石が美しい。石を掘り出し力いっぱい投げつける若者の身体が美しい。
日本中世の民衆と悪党どもの印地打ちも、こんな感じで始まったのかもしれない。
さすがラテン系と感心させられる、女性たちの詩の朗読がシュプレヒコールの旋律に昇華していく課程も美しい。そこには音のリズムが重要なファクターとなっている。
このチリの革命ドキュメンタリーは、事実の集積のように見えるけれど、やはり物語であってそれ以上でも以下でもない。アジェンデ政権とピノチェト独裁政権、そしてその後の民主化を見守ってきたパトリシオ・グスマンの「チリの未来を夢見る」物語である。
この美しい物語を綴るだけの経験・力量と本物の熱意があってこそのこと。
想いの美しさは十分に映画に昇華されているし、2019年から始まった自然発生的な大衆行動が、監督の予想し得なかった力を発揮したのは事実。それも、女性中心だったことに秘密があると感じる。これが、ひどい境遇にいる女性たちの希望の物語だとはわかっていても、それだからこそ、彼女たちの真摯な言葉に涙が出てくる。
この動きのあと、第一次憲法改正草案は否決された。あまりにも急進的で多様化を目指し、先住民の権利を拡大しようと急いだから。そしてゆり戻しによる右傾化した第2次憲法改正草案も2023年に否決された。この辺りが、漸進的だが民主化の進展し始めたチリの現在位置を感じさせる。
私達日本でこれだけの物語を語る内実があるだろうかと、自らの周囲を見渡す。
日本の女性たちも十分に強く美しい。彼女たちが自らの物語を語れるようになることが、大切なんだろう。
チリだからと言って馬鹿にできないドキュメント
文句なし!
先日、ニュースにもなった韓国の大統領自ら戒厳令指令。この時も韓国の人々は抵抗した。今回の作品での抗議の声はKPOPのペンライト。今回のチリは鍋と石。どんな形でも声をあげなきゃ意味がない。
2019年の地下鉄値上げから起こったチリの民主化運動。老若男女声をあげた事が政府にジワジワと伝わった。
チリの女性インタビューを観ているとどこかの国の社会問題かと思わせる程深刻だった。
声を上げ続けなければ政府に伝わない。改めて、このドキュメントで教えてくれた。大変、素晴らしい作品でした。
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