「「想い」を物語る映像と音の魔力」私の想う国 abukumさんの映画レビュー(感想・評価)
「想い」を物語る映像と音の魔力
この映画は、美しい。映像だけでなく「音」の美しさが重要。
インタビューを受ける女性たちの目や表情はそれぞれ生き生きと美しいし、デモや反対闘争のさ中に歌われる歌や、石・鍋・缶で抗議する民衆の身体の動き、躍動感も美しい。
地面に転がる石が美しい。石を掘り出し力いっぱい投げつける若者の身体が美しい。
日本中世の民衆と悪党どもの印地打ちも、こんな感じで始まったのかもしれない。
さすがラテン系と感心させられる、女性たちの詩の朗読がシュプレヒコールの旋律に昇華していく課程も美しい。そこには音のリズムが重要なファクターとなっている。
このチリの革命ドキュメンタリーは、事実の集積のように見えるけれど、やはり物語であってそれ以上でも以下でもない。アジェンデ政権とピノチェト独裁政権、そしてその後の民主化を見守ってきたパトリシオ・グスマンの「チリの未来を夢見る」物語である。
この美しい物語を綴るだけの経験・力量と本物の熱意があってこそのこと。
想いの美しさは十分に映画に昇華されているし、2019年から始まった自然発生的な大衆行動が、監督の予想し得なかった力を発揮したのは事実。それも、女性中心だったことに秘密があると感じる。これが、ひどい境遇にいる女性たちの希望の物語だとはわかっていても、それだからこそ、彼女たちの真摯な言葉に涙が出てくる。
この動きのあと、第一次憲法改正草案は否決された。あまりにも急進的で多様化を目指し、先住民の権利を拡大しようと急いだから。そしてゆり戻しによる右傾化した第2次憲法改正草案も2023年に否決された。この辺りが、漸進的だが民主化の進展し始めたチリの現在位置を感じさせる。
私達日本でこれだけの物語を語る内実があるだろうかと、自らの周囲を見渡す。
日本の女性たちも十分に強く美しい。彼女たちが自らの物語を語れるようになることが、大切なんだろう。