ブラザーズ・グリム : インタビュー
テリー・ギリアム監督の“中世の騎士好き”が爆発!
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だが、彼がこのプロジェクトに関わったときに書かれていた脚本は、彼がイメージするグリム童話とはかけ離れた内容だった。そこで彼と彼が監督した「ラスベガスをやっつけろ」の脚本家トニー・グリゾーニが大きく手直しする。
「とにかく基本的におとぎ話のセンスを分かってない脚本だった。魔法とは何か、魅惑とは何かをまったく理解していないし、それらを描こうともしていなかった。よくわかる例を話そう。オリジナル脚本では、魔女の部屋にあるのは鏡ではなく絵画だったんだ。だが、絵画には魔力はない。鏡なら魅惑と危険さの両方の性質を兼ね備えている。だから鏡にしたんだよ。
それに、最初の脚本では、主役の兄弟2人は性格的に現代人だった。ハリウッドの現代劇の若者たちが中世に行きました、という脚本だったんだよ。2人はある世界の中で何かを体験するのではなく、ある世界を外から見ているだけなんだ。そのうえ、映画の兄弟は兄が現実家で弟が夢想家だけど、オリジナル脚本では2人の性格は差別化されてなかった。だから、映画のクライマックスとなる、この2人の性格の違いから生じるドラマも、オリジナル脚本にはなかったんだ」
もうひとつ、ギリアム監督がオリジナル脚本に加えたのは、異形のクリーチャーたちだったのではないだろうか。とくに悪夢版ジンジャーブレッドマンのような姿に変貌していく“タールベイビー”のイメージは、いかにもギリアム監督の世界の住民らしい。
「タールベイビーの原型はオリジナル脚本にあったんだよ。でもそれはただの泥のかたまりで、映画のような存在に変えたのは僕だ。彼はピノキオのように自分も人間の子供になりたいと思って、あんなに恐ろしいことをしてしまう。ジンジャーブレッドマンみたいなデザインにしたのも僕のアイデアだ」
しかし意外なことに、クリーチャーの数はオリジナル脚本より映画版の方が少ない。
「オリジナル脚本は、クリーチャーがものすごくたくさん登場する物語だったんだ。僕はその数を減らしたんだよ。どんどん省いていった。というのも、そのクリーチャーはみんな、民話の登場人物じゃなかったんだよ。オリジナルのクリーチャーなんだよ、例えば昆虫が集合して人間の形になったものとか。そんなものが出てきたら、もうそれはグリム童話じゃない。
そうなったのは、オリジナル脚本を書いたアーレン・クルーガーが、ホラー映画好きだからじゃないかと思う。彼の脚本は、グリム童話をホラー映画の様式にリライトしたような物語だったんだよ。彼はリライトが得意な脚本家だからね。でもおとぎ話とホラーはまったく性質の異なるものなんだ」
中世の騎士に魅了されるテリー・ギリアム監督が描いたグリム童話の暗い森は確かに魅惑的だが、迷い込むには覚悟が必要だ。