「ジェネリックなもったいなさ」九龍ジェネリックロマンス 弁明発射記録さんの映画レビュー(感想・評価)
ジェネリックなもったいなさ
原作漫画未読。アニメ最終話まで鑑賞済み。
以下、アニメ最終話までのネタバレ含む。
いやあ、これ、この映画が初見で全く前情報ない人だとすげえ分かりにくいだろ。たぶんグエンがジェネリックグエンと今のグエンの2人いたことすら気づかない可能性ある。
このジェネリック九龍が何がOKで何がダメで誰がジェネリックが誰が実際に存在するかももっと明確にしたほうが良かったと思う。アニメはジェネリックと本物が両方存在するところに面白さがあったりしたわけだけど、後半でジェネリック九龍の世界の説明はあったから。
例えば嶋田久作はジェネリックで自分がジェネリックな自覚もある人で。店長はジェネリックだけど自分にジェネリックの自覚がないから、後半で「誰だお前は!」と豹変する。それはジェネリック九龍を意図せず作ってしまった工藤の心境が変わってきたから(ずっと過去を繰り返すことより未来に進む決意的な意味での変化)。そういう意図の演出だと思うのだが、あれも完全初見だと分かりにくいのではないかと思う。
そして。おそらく賛否われるであろう九龍から出た鯨井が消えない!と思ったら消えた!終わり方。あれ、エンドロール後の再会をやるなら、「絶対の自分」というキーワードを連呼させるなら、消えるべきではなかった。あれでバッドエンド感が増したし、エンドロール後の再会も「これは夢か何か?」みたいな単に分かりにくい描写になった。
アニメ最終話では鯨井は九龍から出た後も消えない。そして数年後にまた工藤と香港のテラス席で再会して物語は終わる。
終わり方は同じと言えば同じだが一度消えるのは良くないよな。前の席の人、エンドロール途中で出ていったし、バッドエンドな印象持つ人が沢山いると思う。
たぶん、あえて色々解釈できるエンドにしたつもりなんだと思うけど、この手の「意外とSF要素が多い作品」は明確にした方がいい部分もあると思った。
次に工藤。いや、もっとカッコよく演出できただろ。役者だけの問題じゃないと思う。演出と衣装とかでもうちょっとカッコいい先輩感出せたと思う。え、これにホレる?レコポン大丈夫?ってのはたしかにアニメでもあるのよ。妙に過去にとらわれてるしデリカシーのない発言も多いし。アニメは杉田ボイスとさわやかな絵に助けられていたところもあった。
この映画の工藤は明らかに「鯨井の可愛さ」に対し「工藤のカッコよさ」を演出しきれてない気がした。序盤の食べながらしゃべる場面とか「おい、食べながらしゃべって口の中見せるなよ!」思ったし。あれ、カメラアングルとかで何とかできただろ。
微妙にひげが生えているのは工藤を演じる水上が鯨井を演じる吉岡より実年齢6歳下ということもあり、なんとか貫禄を出して先輩感を出す工夫だったのではないかと思う。けど、ひげもなくてよかったんじゃないか。
終盤のレコポンと一緒に逃げる場面もなんであんなラフな短パン姿なんだよ。あそこはスーツで良かっただろ。
「レコポンがなにがしかに困っていて工藤がそれを助ける」みたいな場面をちょいちょいでも挟んでいたらまだ印象が違ったかもしれない。この工藤にホレる?感あるんだよな。
過去回想で先輩の鯨井Bにホレる後輩工藤の場面は結構ハマっている感じがあり、ここは良かった。たぶんこのバランスで選ばれたのではないかとすら思う。後輩オーラはあった。これにより「タイムカードを後から来て先に押すズルさ」も「水餃子に正義を感じない?」も先輩鯨井Bからの影響だったんだ、ということに説得力が増した気がする。
次、CGな。小黒(シャオヘイと読む難易度)が九龍から出ると消える際の演出。サイバー感を出したかったのは分かる。しかしあまりにB級SFな歪み方だったろ。あれもCG担当だけのせいじゃない。監督なり演出なり誰か「ここ安っぽい感じで良くないね」みたいに誰も指摘しなかったのか。ふっと一瞬で消えるとかで良かっただろ。
終盤の九龍崩壊のデジタルがくずれていく感じの演出もやりたいことは分かるが金がなかったのかなと感じるさみしさがあった。サクセスが案内役になって工藤の過去を見せてくる展開はアニメ終盤にもあるのよ。でもアニメのほうはもっと金魚がたくさん宙に浮いていたり幻想的な感じがあった。実写映画ももうちょっと幻想的にできたのではないかと思う。
良かったところもあげる。
まず、九龍のセットは想像以上に良かった。ジェネリックではあるがちゃんと九龍を再現しようという心意気は感じた。まあ台湾に実際にああいう場所があるのだろうけど、それでもよくちゃんとロケしたと思う。ちゃんと人が生活している感じがしたし、狭い路地を身体をひねって通るような演出もあり、これはすごく良かった。「この九龍になつかしさを感じる」という感じのセリフの説得力は増したと思う。正直、アニメのほうは「ごめん、作画コストが高くてそこまでごみごみした九龍感は出せない!ジェネリックということで許して!」感があったから。この九龍の街並みはアニメより良かったと思う。
工藤が頻繁に数字の八の字をさわりそれが鯨井Bに言われた「八と一の発音って似てる」みたいなセリフの影響であるということが後半で明確に示されるのも良かった。あそこもアニメでは「八を触っていたのは何だったんだ」で終わったから。
あと、これはさけることができない。序盤で楊明(ヨウメイはまだ読める)こと梅澤のへそがおがめる点ね。普段の乃木坂の制服だとなかなかお腹が出ることないから~梅のおへそが観れてラッキー。みたいな感想を言いたくはなかったのよ、本当は。もっと「世界観がすごくて」「演出が素晴らしくて」という感じのことを言いたかったのよ。CGが梅のへそに負けている。
あの楊明もさ、外から来た人でジェネリックではない存在で。それでもジェネリック鯨井を「レコポン」と呼んで「絶対の自分」あでると認めてくれる結構重要なポジションなのよ、アニメでは。外の世界とジェネリックの世界をつなぐ存在でもある。映画ではそこらへんを入れる余裕がなかったのは分かるけど、もったいねえよなあ。
吉岡鯨井に色々な衣装を着せてくれたのも良かったよ。ぎりぎりエロくなりすぎないように、かつ本人の魅力を損なわないような配慮は見えた気がした。からこそ、工藤はもっとどうにかなっただろうと思う。
ちょっとした演出の違いで、もっと印象が良いステキ感がある映画になったと思う。もったいねえ!
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