「面白いが物足りない」ショウタイムセブン LSさんの映画レビュー(感想・評価)
面白いが物足りない
書きかけで忙しく大きく時機を逸してしまったが、これを仕上げないと他のを書けないので。
阿部寛好きなので鑑賞。拗らせて斜に構えた感じが、信頼感だけでない海千山千のキャスター像によく似合う。
冒頭から他局との犯人奪い合いぐらいまでは生放送中の手に汗握る緊張感がこちらにも伝わってきた。と同時に、事件をネタに都落ちのラジオパーソナリティが貪欲に花形プライムキャスターに復活する様がイキイキと描かれていた。
だが総理を呼ぶ辺りからダレてきた気がする。場面がスタジオから動かずテンポがよくないし、総理来局の駆け引きがその後のストーリーと絡まない(振り返ればれば発電所事故疑惑で直接の接点があったのに)のがもったいない。爆発の現場も突入シーンもロングの中継映像ばかりで緊迫感や迫力を欠く。
一転、終盤の主人公の秘密の告白からは、怒濤の畳みかけとなる。発電所事故の政治による隠蔽、製薬疑惑での偽情報攻撃と降板、まさかの視聴者投票にセンセーショナルな本音の暴露、エピローグでインサートされる放送免許取り消し論議からロンドン爆弾テロへ。それぞれがジャーナリズムにおける重大な論点をはらむように思うが、どれもが乱暴に投げっぱなされて終わる。
制作陣は何を伝えたかったのか。まっとうに考えれば中心はニュースキャスターとしての主人公の物語なのだろう。記者魂と局の経営を担う視聴率男であることの二面性、それらのジレンマと混沌が魅力になり得たと思うのだが、肝心の前者があまり感じ取れなかった。
特に、主人公が切り込んだはずの電力会社と製薬、どちらの事件も主人公と犯人による言葉での説明だけで、過去の調査のカットも証拠の開示もなく、記者としての有能さを表せられなかったように思う。政治家の懐柔(圧力)シーンも今どき時代劇の悪代官かという古めかしさでリアリティがない。
もう一つは、逆説的だが、こうした全てはテレビ業界という内輪のお遊び、茶番として描かれている可能性もあるかと思った。登場人物が現実の社会の問題と報道の役割、言論の自由の価値に向き合わず、エリートがただ権力を行使して何かを成し遂げたつもりになっている姿を冷笑し、いつか危機が現実になったときにこうした虚構は暴かれると示唆したいのかもしれない。
(それってどこのパト2だ、というのは置いといて)そう考えると意外と悪くないかもと思ったが、そこで「シビル・ウォー」という傑作が浮かんできてしまい、ジャーナリズム批評としても弱さを感じる。前述した論点のどれかにでも、もう一歩踏み込んでほしかった。