劇場公開日 2025年2月7日

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「ライブ感たっぷり。一視聴者になった気分で、緊迫したせめぎ合いを味わえるものの、その反面ツッコミどころ満載です。」ショウタイムセブン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ライブ感たっぷり。一視聴者になった気分で、緊迫したせめぎ合いを味わえるものの、その反面ツッコミどころ満載です。

2025年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

韓国映画「テロ、ライブ」(2013年)をリメイク。阿部寛が主演を務め、テレビの生放送中に爆弾犯との命がけの交渉に挑むキャスターの姿をリアルタイム進行で描く極限まで引き上げられた緊迫感と共に進行するノンストップサスペンス。「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」の渡辺一貴が監督を務め、オリジナル展開を盛り込みながら緊張感たっぷりに活写します。

●ストーリー
 国民的ニュース番組NJB『ショウタイム7』で人気キャスターだった折本眞之輔(阿部寛)は、3ヶ月前に番組を降板。今では左遷され、NJB系列のラジオ局で『トピック・トピック』のパーソナリティを務めていました。
 ある日の午後7時。番組生放送中に、“うすばかげろう”という人物(錦戸亮)から電話がかかってきます。彼は「大和電力の火力発電所に爆弾を仕掛けた」と話すのです。折本は嘘だと思って軽くあしらい、番組で音楽がかかっている最中に、「爆発、本当にできるならやってみろ」と挑発して電話を切ります。その後、本当に近くにある火力発電所が爆発。犯人からまた電話がかかってきます。本物のテロ犯だと確信した折本は、自分が出演していたショウタイム7に復帰できるチャンスだと考えます。そしてプロデューサーの東海林剛史(吉田鋼太郎)にテロ犯とのやり取りの独占スクープを放送しようと持ちかけるのです。ショウタイム7の生放送で折本が犯人から要求を引き出そうと試みます。しかしそのスタジオにも、すでにどこかに爆弾が設置されていたのです。犯人は試しに突然スタジオの備品を爆破してみせ、スタジオにいるみんなが人質になったと脅迫を仕掛けてくるのです。自身のすべての発言が生死を分ける極限状態に追い込まれた折本の姿は、リアルタイムで国民に拡散されていきます。

 折本が犯人との交渉を進めるうちに、政府の闇が徐々に明らかになっていきます。犯人の父親が巻き込まれた事故を、現・総理大臣の水橋孝蔵(佐野史郎)が過去に隠蔽したこと。それが許せない犯人は、スタジオに電力会社の社長や総理大臣を呼び出すように命じます。折本は、総理大臣を呼び出すために電話をするも、適当に受け流されてしまいます。テレビ局の局員たちは内心、総理大臣を呼び出すのは不可能だと感じながらも、犯人をごまかし、時間を引き伸ばしていきます。
 犯人が明かす事情などから徐々に犯人の正体が見えてきます。駆けつけた警察によって、犯人が“シゲフジ”という名前であることが明らかになるのです。シゲフジの高校時代の恩師だという人物・城大作(平田満)がスタジオに現れ、交渉をはじめものの、城はシゲフジを蔑み、煽ってしまいます。キレたシゲフジは、仕掛けた爆弾を作動させ、城は血を流し、倒れてしまいます。さらにシゲフジは、スタジオにも爆弾を仕掛けたと脅迫。スタジオ内部の閉鎖を命じます。スタッフ・観覧一般客は、人質状態に陥ってしまうのです。
 そんな時、爆発現場となった火力発電所近くで動きでてきます。警察がシゲフジが潜伏していたとされるマンションの一室に潜入しますが、そこにシゲフジの姿はありませんでした。そして、スタジオに仕掛けられた爆弾のカウントダウンが一際大きくなっていきます。スタジオごと爆発させられると感じ、誰しも逃げ出そうとしますが、折本だけは逃げ出さそうとしませんでした。折本はなぜ逃げなかったのでしょうか?

●解説
 まずはサスペンスとして、劇中はライブ感たっぷで、一視聴者になった気分で緊迫したせめぎ合いを味わえるものの、その反面ツッコミどころ満載です。
 例えばセキュリティが超万全なはずのテレビ局や火力発電所に爆弾を仕掛けられること自体が現実離れしている。特にスタッフが行き来するスタジオの中で、気がつかれずに部外者が爆発物を仕込むなんて考えられません。NHK出身の渡辺監督なら、もっとディテールを実際に近づけて演出できたはずです。
 火力発電所の爆破だって、現場スタッフが120人残っていると報道されていました。発電の一機が崩壊するほどの大爆発が起こっているとしたら、当然犠牲者も多々出ていたはずです。それなのにストーリーは爆破テロの犯人を、過去の事故を隠蔽されてしまった被害者として演出しようとするのです。犯人にどんな事情があれ、無差別殺人を行ったのなら、もっと断罪されるべきです。
 さらに3カ月前のアブシル薬害事件で上から隠蔽を命じられ、報道に関する正義を完全に見失ったこともあって降板したという折本の過去も、充分な説明になっていませんでした。

 そして最大のツッコミどころは、結末を曖昧にしてしまったことです。無差別テロに加えて、スタジオ立てこもりという大事件なのに、テレビはその続報を断ち切って、英国の地下鉄爆破という世界を揺るがす大事件発生にスイッチしてしまうのです。そして何事もなかったように、歌番組に代わり、Perfumeが画面でパフォーマンスを披露しています。
 テレビの扱いなんて所詮そういう風に、今起こっていることを掘り下げるのではなく、常に刺激の強いものに、情報を使い捨てていくものかもしれません。
 しかし、本作にとってそれは別な話です。やっぱりきちんとオチをつけてほしかったです。

 ところで本作で気になるのが、スタジオ内で人物に仕掛けられた爆弾が、みんな線香花火のようなちゃちい爆破にしてしまっていることです。キャスターの結城千晴(生見愛瑠)なんて、爆破して気絶するものの、すぐ意識を取り戻して折本にいちゃもんつけていました。これ本来は、元の韓国映画『テロ・ライブ』では、血まみれになって退場しているのです。
 いちゃもんつけさせるためだけに爆破規模をすぐ復帰できるほどのちゃちい爆破にしてしまったとしても、彼女の存在自体が生見愛瑠を投入するほどの必要性があったのかどうか疑問です。

●主演、阿部寛について
 そんなツッコミに負けず、終始作品に息をのむような緊迫感を与えているのが、阿部寛の熱演です。実は彼がキャスター役を演じるのは初めてで、まるで舞台の上に立っているような生々しい緊張感があったそうです。非常に繊細で難しい役どころに加えて、複数のカメラで長回しを行うことが多く、一瞬たりとも気の抜けないシーンを演じ抜きました。そのため、台本を完全に自分の中に落とし込み、瞬間瞬間の感情やライブ感を最大限に引き出すことが阿部寛とって大きな挑戦だったことでしょう。
 とにかく気迫のこもった演技を堪能できます。

●感想
 サスペンスで大事なことは、動きを映像で見せることです。しかし本作では、そのほとんどを折本と犯人の会話に、時々現場レポートを入れて進行させています。その結果、場面のほとんどがスタジオの中に集中し、変化の乏しいものになってしまったのです。
 本作の発端となる6年前に大和電力の増設工事で死者が出た件など、重要シーンは台詞で語らせるのでなく、実際に映像にして見せるべきだと思います。そうすることでサスペンスとして、説得力が強まったことでしょう。

流山の小地蔵
かぜさんのコメント
2025年2月11日

ラストの展開、違和感がありましたが、たしかに、TVニュースは完結せずに、目新しいものばかり、どんどん変えて放送してますね。

かぜ