「かけがえのないものであったことを思い出させてくれる」お祭りの日 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
かけがえのないものであったことを思い出させてくれる
家族や友人、異性との関係、学校や社会、部活動やバイト、そして旅行などの思い出が、夏の日のうだるような暑さや雲ひとつない青空、突然の雷雨、寂しさを感じる晩夏、ひぐらしの鳴きごえや花火、盆踊りの音などと共に、ふとよみがえってきて胸を締めつけられる人には、この映画が沁みるはずです。
各話の世界が花火の音でもつながるのですが、堀内友貴監督がこれまで描いてきたモラトリアムな時間が本作でも切り取られ、同じ時間軸の話のようでありながら、まるでそれぞれは別世界のようにも見えてくるのです。
そんなモラトリアムな時間の中で、交わるはずのなかった者同士がほんの少し会話をして同じ時間を過ごしたり、忘れた記憶を巻き戻し、外の世界に一歩踏み出すことで、それぞれが自分に猶予を与えていた時間が動きはじめるように見えます。
その瞬間をオフビートなコミカルさと会話、そして寂寞感とともに、夏の終わりの日に重ねたような作品です。何者でもなかったが、あの時間やその瞬間に感じたものは、かけがえのないものであったことを思い出させてくれます。
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