「冒頭の参考人5人を縛っていたものは、どんな鎖だったのだろうか」ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭の参考人5人を縛っていたものは、どんな鎖だったのだろうか
2025.1.28 字幕 TOHOシネマズ二条
2023年の中国&香港合作の映画(126分、G)
実際の事件「佳寧集団詐欺事件」をモチーフに描いたクライムスリラー映画
監督&脚本はフェリックス・チョン
原題は『金手指』、英題は『The Goldfinger』で、「不正な取引」という意味
物語の舞台は、1970年代の香港
技師として香港で働こうと考えていたヤッイン(トニー・レオン)は、密入国の末、同郷のツァン・キムクォン(スン・キムロン)を訪ねた
全く相手にされなかったが、キムクォンの弟ギムキウ(サイモン・ヤム)は彼に興味を持った
ギムキウは新陽不動産を狙っていて、新松グループのン・レンソン(タイ・ボー)と取引を行っていた
だが、資金繰りが悪化していることを見抜かれ足元を見られていた
そこでギムキウはヤッインをサクラとして雇い、値段の吊り上げ交渉を目論んだ
このエピソードを機に親睦を深めたヤッインとギムキウは、甥のジョニー(カーキ・サム)と3人で、多くの詐欺を行っていく
ヤッインは事業資金を得て、会社の設立を始める
そんな彼の元にやってきたのが、チュン・カーマン(シャーリー・チョイ)で、ヤッインは彼女の名前を会社名にして、グループを立ち上げることになった
映画は、この出来事から11年後をメインに描き、ICAC(廉政公署)の上級調査官のカイユン主任(アンディ・ラウ)の捜査を中心に描いていく
ICACは皇家香港警察から独立した組織で、警察の汚職を取り締まる機関だった
冒頭では香港警察との衝突の様子が描かレ、このデモによって、過去の汚職は不問とされたと説明されていた
物語は、詐欺が多発し、株式のインサイダー取引や、不当な吊り上げ工作があったと疑われたヤッインが捜査対象となっていく様子を描いていく
前半は、ヤッインの事件の関係者となる友人たちの回顧録になっていて、レンソン、ジョニー、カーマン、ヤム・チェン、(マイケル・ニン)、ロバート(カルロス・チェン)たちの「思い出話」が描かれていく
ギムキウと一仕事を終えたヤッインは、レンソンが例の物件を政府に高値で買わせたことを知り彼の元を訪れた
レンソンには専属の株式ディーラーのヤム・チェンがいて、この時のヤッインは彼に大損をさせられていた
だが、ヤッインはヤム・チェンを引き入れようと、大きな夢を語り始める
それが香港に聳え立つ金山大厦を手に入れるというもので、事業を大きくしつつ、子会社同士の株の買い入れなどを行いながら、カーマングループの価値を吊り上げていった
そんな折、ギムキウと再会を果たしたヤッインは、上級社会の連中と顔を合わせるようになる
手始めに華業銀行の副頭取のロバートとの接触を行い、彼が溺愛している女優(スミス・マリア)をあてがうなどして、金山大厦を購入させて、カーマンの株価を吊り上げていくのである
その後、香港の中国返還が決まり、イギリス系資本が撤退し、中国本土からの圧力が強まると、香港経済全体が冷え込んでしまう
投資意欲も消失し、全ての株価が下落の一途を辿っていく
その頃になると、ヤッインもかなり追い詰められていて、関係者の不審死などが相次いでくる
だが、それでもヤッインは有罪になることはなく、一連の詐欺事件はジョニーが身代わりとなって、生き延びてしまうのである
映画は、淡々と出来事を並べていくものの、金融関連の知識がゼロだととてもついていけない
ある程度株式の売買をしたことがあるとか、香港の経済に詳しいとかでないと厳しい部分もある
だが、そこまで複雑なことは描かれておらず、株式を現金と同じような価値があることを見抜いたヤッインが、資金集めのために現金ではなく株式を発行し、さらにその手数料を賄賂として購入者に渡していたという流れになっている
そして、それによって、株価に対して約1%の現金で相手を取り込むことができてきたのである
基本的に会話劇のため、俳優の演技力合戦になっているのだが、これを面白いと思えるかどうかは何とも言えない
会話の中身がわからなければ退屈だし、目を覚ますようなシーンも幾つかしかなかったりする
カイユン暗殺未遂とか、協力者の始末などはゾクっとする部分はあるが、一番怖いのは「一般債権者(株式購入者)には保証がない」というところだろうか
上級階級には損をさせない設定になっていて、株価が1香港ドルになっても50で買い戻すという約束をしていて、それだけ行って一般は無視という流れになっている
ヤッイン自身も東マレー海国銀行のムシャ・ハファ(フィリップ・ケウン)との違法取引における3年の懲役刑だけを喰らっていた
唯一の有罪であるものの、これだけの巨額な詐欺事件を起こしているので、実質「薄皮一枚もめくれていない」ようなものに思える
架空の妻の名義に送金したお金がどうなったのかなどは描かれず、あくまでもヤッインとカイユンの対決に重きを置いていて、そこにエンタメ性を見出していたのかな、と思った
いずれにせよ、この手の特殊な事件をどう描くかというのは難しく、あまりにも噛み砕きすぎると物語の展開が阻害され、事件そのものの重みというものが無くなってしまう
人の欲をわかりやすく表現するのが、性欲、食欲、支配欲で、本作ではその中でも性欲と支配欲というものを重視していたように感じた
色で狂う証券マン、色で力を誇示される上級などのように、その人物の何を抑えれば征服できるのかをヤッインはよくわかっている
金欲に溺れるものには現金を掴ませ、下半身を押さえて身動きを取れなくするのは常套手段で、そう言ったものを露骨に描かないのも良いのだろう
ヤッインは全てのものや人を道具と見なしていて、お金があっても手に入らないものをコントロールしてきた
そのわかりやすい例が性欲なのだが、それは同時に支配欲の強さを表しているとも言える
今の時代だとあり得ないようなシーンがたくさん登場するが、欲望をむき出しにして命懸けで生きてきたからこそ、熱いものがあったのかな、と感じた