「AIイラスト・神絵師大渋滞の現代に」映画ドラえもん のび太の絵世界物語 あさんの映画レビュー(感想・評価)
AIイラスト・神絵師大渋滞の現代に
息子の春休み&新学期のバタバタに疲れ果て、悪役を怖がって途中退出のリスクを抱えながらも2時間弱静かにしてくれるなら!と息子を連れて映画館に駆け込む。
映画館で観るのは自分の小学生の時ぶり。
冒頭、ど迫力のミノタウロスに息子とともにビビりちらかすが、コミカルに逃げ惑うドラえもんとのび太に懐かしさだの愛おしさだのないまぜな感情で泣きそうになる。これはあれだ、久しぶりに旧友と再会してピョンピョンしたくなるやつ。
ドラえもん久しぶり〜!と心がほっこりしつつ、あっという間に異世界に引き込まれていく。
火山によって形成された湖の中に位置する国、アートリア"公"国。地理や歴史の小ネタみっちりで、私たちはこんな贅沢なものを子どもの頃から観ていたのか!と驚き。
途中、令和になってもしずかちゃんは入浴させられてるのか(いくら風呂好きでも入ってるとこ描かなくてもいいじゃん!)とモヤっとしたが、このシーン、後に偽物のクレアを見極めるためのエピ&クレアが絵の世界の人(水を嫌う)であることの2つの伏線になっている(たぶん)。そう、この作品、伏線の張り方がすごく上手い。アートリアブルーゲットを目論むスネ夫が女神像に祈るシーンでも、後々キーになるチョコレートや水のなんとも自然な映し方はあっぱれ!
そこから先は「絶対悪に道具と仲間でどう立ち向かうか?」というある程度テンプレストーリーにはなっていくが、盗まれた絵が後世に残るという悪側の主張は風刺が効いていて良かった。
ラスボスのイゼールは画材のイーゼルから来ているのか、ドス黒いデザインだが世界を"黒"ではなく"白"にする。これは序盤でのび太が「うまく描かなきゃ」と思い込んでいることやスネ夫たちに絵をからかわれることで「絵を描く気力を失う」=真っ白のイーゼルのメタファーなのだろうか。このあたりから息子も怖がるかと危惧したが、やはり上質な脚本は転結部分のスピードが速い。怖がり始めた頃にスネ夫が華麗に伏線を回収し解決策を見つける。ありがとうスネ夫!
絶体絶命の白の世界をカラフル世界のゆるゆるなドラえもんが救うシーンからはもうずっと感情ジェットコースター。マイロとクレアの長年のすれ違いもあまりの可愛さに椅子から滑り落ちそうになる。トドメにのび太パパのセリフである。はい最高。
映画として非常にクオリティが高かったが、それ以上に評価したいのは物語に込められたメッセージである。簡単にAIイラストが作れたり、SNSで膨大な神絵師の絵が流れてきては消えていったり、「絵」の存在が軽くなってきている現代において、アニメーションに携わる作り手から子どもたちへの想いの温かさに感動した。この作品を子どもに観せられて本当に良かった。
息子がどこまで理解できたか分からないが、他者評価なんか気にせず好きなものを好きに続けていってほしい。
疲労回復目的の鑑賞だったがうっかり長文レビューを残してしまうくらい没入してしまった。
ありがとうドラえもん。ずっと変わらずにいてね。
来年もよろしく!