「パレスチナにおける等身大の若者たち」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない ターコイズさんの映画レビュー(感想・評価)
パレスチナにおける等身大の若者たち
ドキュメンタリー作品の魅力は、ストーリーに頼らないからこその空気感だと思う。バーセルとユバルの関係は友情というのはあまりに曖昧で、でもそこがいい。バーセルは逮捕を恐れる普通の青年でユバルはイスラエルのやり方に疑問をもちつつも等身大で、どこにでもいるような二人がこれ以上ないほどの非道な暴力と抑圧を直視し映像に残し続ける。この作品の一つの柱はこの二人のリアルな心模様でもう一つの柱はヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区で何が行われているか、だと思う。村人が使う井戸にコンクリートを流し込み、小学校をブルドーザーで破壊し、水道や電線を切り、毎日一戸の家を破壊するようなやりかたで、村人の心を挫く。パレスチナ人を追放する光景や入植者による暴力は、同時代にこれが行われていると思うと苦しくなる。社会は正義ではなく力によって支配されているということを痛感しつつ、やるせなくなる。
バーセルも、そしてパレスチナ人に時折責められるユバルも、諦めたようなうかない表情が目立つものの時折若者らしい姿もみせる。それがまた切ない。ユバルの語る絵空事はバーセルには響かないし事態はむしろ悪くなってゆく。家を壊されても洞穴に住むことでマサーフェル・ヤッタを離れようとしなかった村人も、事態が変わっていくことで離れることを与儀なくされる。
普通の若者二人がとったマサーフェル・ヤッタの真実。懐かしく温かい故郷を踏みにじられるということの痛みを、少しは共有できただろうか。人間性を放棄し、子どもたちがいる学校を潰し井戸を埋める行為は、イスラエルの若き兵士の心をも蝕んでいくんじゃないか。パレスチナという最も人間性が軽視されている地においての、等身大の若者の視線がなんとも言えない重い作品だった。