お坊さまと鉄砲のレビュー・感想・評価
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変化の時に本当の幸せと平和な世界を問う
ピュアが過ぎる
ブータン映画は『ブータン 山の教室』に次いで2作目。同じ監督の作品なのですね。
とてもロケーションが美しい国だけど、今作では車が通れる所だから、だいぶ低い村なのかな?
タイトル通りお坊さんが銃を手に入れる話と、ブータン初の選挙という2つが並行するお話。
ちょっとずつニアミスしながら繋がっていくなかで、出てくる人が揃いも揃ってピュアなのがかえって可笑しい。
便利を知ってしまうと不便を感じるのだろうけど、そもそも村の人々は幸せに暮らしているから、何も不満はなさそう。
とはいえ選挙の仕方を役人が教えに行くとか、この話からまだ20年経ってないのがなんとも。
終盤、うまく2つが繋がるものの、銃が必要だった理由は予想外。お坊さんも村の人々も警察までも、ふざけてるのかと思うほどにド天然で面白かった。
そしてあんなんお礼に貰っても困る。
物騒なタイトルとは裏腹に楽しくハッピーな映画。
ブータン愛溢れる作品
掘ってたのそれかよ・・・
・・・って思ったのは私だけじゃ無いはず(詳しくは本編を見てくれ)
ブータンは最後にテレビと携帯(通信)が整備された国である。とはいえまだ一家に一台とはいかないのでテレビのある家や茶屋にみんなが集まってテレビを見ている。「ALWAYS 三丁目の夕日」で描かれていたような昔の日本と変わらない。顔立ちがモンゴロイドなのもあって行ったことない国なのにどこか懐かしさを感じる風景だ。蕎麦の花ってあんなに美しいのか。
映画の舞台は2006年だが田舎の山間部でも携帯がちゃんと通じることにむしろびっくりする。ちゃんと基地局あるんだなぁ・・・。
国民に慕われていた国王が平和的に退位しブータンが民主化したことで、初の選挙に振り回されるブータンの人々。
今まで国王のもとで幸せにやってきたのに何故わざわざ選挙なんて必要なのか?と疑問に思う村人を必死に「啓蒙」する選挙委員のツェリンも中々上手くいかない。「多くの人が命をかけて必死に勝ち取ってきたもの(選挙権)が与えられたのだ」と言われても村人にはピンとこない。フランスやロシアのように民衆が血みどろの戦いで王制を倒して民主制を勝ち取ったわけではないからだ。日本人としても身につまされる部分ではある。日本も普通選挙のために闘った人々はいたが勝ち取るには至らず、結局GHQから占領後におまけで選挙権が与えられた。現在も選挙率は2割程度。「投票しても何も変わらない」「誰に投票したら良いかわからない」なんて言う人たちが嘆かわしい。
もちろん王政とてうまく機能するのはあくまで「民に尊敬される良き王」が上に立つの場合だけなのは言うまでも無い。タイも国民に慕われていたプミポン国王が泣くなって国民は皆むせび泣いたが、後を継いだ長男はあのざまである。(せめて国民に慕われる長女が継げれば良かったのに・・・)
選挙に関する真面目な話は映画「サフラジェット」(誰だよ「未来を花束にして」なんて残念な邦題つけた奴は・・・)あたりを見てもらうとして、これはブータンの民主制の善し悪しを問う映画ではない。むしろ幸せとは何かを問う映画だ。
選挙に執心している夫は支持者が違うことで義母とも仲違いし、娘も学校でがいじめられることを嘆く母親。
月イチで干し豚を食べるだけが楽しみの田舎暮らしなんて嫌だ、娘をもっと良い学校に通わせたい、という夫の気持ちも、いままでの田舎暮らしで十分幸せだという妻の気持ちもわかる。選挙にかまけて娘のための消しゴム一つ買うことも失念してる父親のせいで娘は先生に怒られる。大人に振り回されるのはいつも子供だ。
ブータンの田舎では仏教が生活に根付いていて、みんなお坊さんのためなら対価も求めず何でも差し出すし快く手伝う。そこに資本主義の介在する余地はほとんどない。お坊さんも「選挙は仏陀の教えにかなうものか?」と民主化も近代化もさして興味なさそう。
アンティーク銃コレクターのアメリカ人ロンと、仲介する都会民のベンジが資本主義の象徴として物欲に振り回されている様は村人たちと対照的だ。
坊さん相手には米ドルも価値がないのでロンとベンジは銃を求めて奔走するも中々上手くいかない。それを追う警察。のどかな田舎で物語は淡々と進むものの、中々展開が予測できないなか、僧侶がなぜ鉄砲を求めたかが明らかになり、綺麗にたたまれるラスト、そうきたか。
ラマ役の役者さんは本物の僧侶だったらしく本作が俳優デビューだとか。どうりでガンダルフのような威厳溢れる佇まいに引きつけられる。ラマの言葉が選挙よりテレビより誰よりも村人には響く。
お金があっても都会で物に囲まれていても幸せとは限らないのは当たり前だが、物欲に関する話は映画「365日のシンプルライフ」あたりを見るとして、どちらにしても一度民主化や近代化に舵を切ったら後戻りは出来ない。どんなに日本人が「ALWAYS 三丁目の夕日」の時代を懐かしんでも、スマホ無しの生活はもう考えられないように、村人たちもテレビのない生活にはもう戻れないだろう。
ブータンは発展途上国の中でも珍しく近代化を目指さない国として、長らく世界幸福度ランキング上位にランクインし「世界一幸せな国」として知られていたが、やはりラジオやテレビ、ネットから海外の情報が入るにつれて自分たちの生活と他国との差異が可視化されたためか、2019年度以降のランキングで幸福度は大幅に下がってしまっているらしい。残酷ながら幸福度は他社との比較という物差しで決まってしまうことがある。
いつか坊さまがブッダの教えより米ドルを選ぶ日が来るのだろうか。それはわからない。けれどラストの村人達を見るとこの国の未来は明るいんじゃないかと思えてしまう。
袈裟と鉄砲(セーラー服と機関銃、みたいに)
足るを知る
お坊さまが鉄砲をご所望、なんともう世も末か!と思う自体になるかと思いきや、ものすごーく平和で穏やかで協調性のある人たちの見本みたいな優しさの塊のブータンの人たち。
これはいつの時代の話?と思うほどに、全く昔から変わらないままの暮らしが現代に続いていることにまず驚く。
信心深い仏教徒だから信仰が染み付いているのか、人々は欲が無く、環境と人にとても感謝しながら生きている。王様も王様としてとても慕われていて、こんな幸せな国だもの、そりゃ色んなものを変えずに続けられたはずだわね。
「足るを知る」を学んだ。
今の現状をより良いものに変えたくて、もうぶっ壊してでもなんとかしたいと訴えて革命を起こして変化を望まなくても、十分に今の暮らしで幸せを感じられるので、選挙をして国の政治のリーダーを変えて改革を!と望む人がほとんどいない。
ねぇ、なんて幸せな国なの!!
でもそこを変えていこう、変わろうとする動きと、この暮らしに満足しているので変化に戸惑う人たちの中に他所から来た欲の塊の人間二人が物語を展開していくのだけど。
ラストに近づくにつれ、なんか色々ハラハラもドキドキもしたけど、変わりゆく世界で変わらない人々の信仰、信念、国民性?をみて、みんなが大事に守り続けてきたものの偉大さを感じたよ。
なんか久々に心を洗われるような映画を観たわ。よかった。
心が疲れている方におすすめしたい。
幸せに夢見るブータンに
心洗われた。
巧みな脚本の虜
以前に劇場でトレーラーを観て興味を持った本作。IMDb、RottenTomatoesでも評価が高いようなので劇場鑑賞を決めました。公開1週目のサービスデイの本日、新宿武蔵野館10時15分からの回はまぁまぁな客入りです。
ブータンの映画は本作が初見の私。興味深さもありましたが、耳慣れない言語は作品に乗れないと眠気との闘いになることもあります。と言うことで、出来るだけ集中力を保ちながら観始めましたが要らぬ心配でした。
物語が動き出すと間もなく、パオ・チョニン・ドルジ監督の巧みな脚本の虜になります。2006年を振り返って作られたコメディは、当時のブータンにおける時代背景(急激な変化)と大衆の意識のズレについて、イデオロギーや文化、或いは価値観の違いなどを利用し、少しずつミスリードさせながら展開していくコントのようで面白い。そして、出演者それぞれに判りやすくキャラクターがついており、真顔で小ボケな感じがオフビートでクスクスが止まりません。更に、次第に状況が変わりながらも、どうしても捨てきれない「悪い予感」が常に付き纏って何気にサスペンスで目が離せない。そんなハラハラな展開がありつつも、観終わって印象に強いのは結局「ブータンの人たちの眼差しや人となり」に尽き、癒されて心が洗われます。
2011年にジグミ・シンゲ・ワンチュク国王が来日され、「世界一幸せな国」のキャッチフレーズで日本でも話題になったブータン王国ですが、その後の「幸福度の大暴落」の予兆も感じる本作。ただただ癒されているだけではいけません。少しでも理解の足しにして、今後もブータンに興味を持ちたいと思います。UNEXTのマイリストに追加したままの『ブータン 山の教室』も早く観ないといかんな!
いい話なのに、ちょっと贅肉付きすぎで気が散ってしまった
資本主義が発展したら民主主義が必要になるけど、資本主義がなかったら?
「他国では血を流して勝ち取った民主主義」というありがたいものを導入するのだ、という政府の役人に地元の女性が、血を流す必要のないところになぜそれが必要なのか?と問う。この言葉に感動してしまった。
もちろん王政が良いわけではない。どんなに良い王の治世でも身分や性別など様々な差別はあっただろう。
しかし、そもそも大きな不満なく暮らせていたのに外から人々を分断するような制度を導入するのは何故か?という素朴な疑問を抱くのはよくわかる。
とは言っても、否応なく他国から押し寄せる資本主義の波を避けることはできない。ブータンにも貧富の差が広がり、人々はいかに人より多くを所有し、それがあたかも「幸せ」の象徴のように考えだすだろう。
世界は発展し様々な知恵を産み出し、学問も医療も芸術も、あらゆるものが進んだが、人間の「幸せ」はそれとは別物なのだ❕と考えさせられる、この映画は素晴らしい寓話として描かれている。
昔読んだ文化人類学者中根千枝氏の本に、フィールドワークで未開人の中で暮らしていると、時々とても退屈になる、精神世界がシルプルすぎて、というような話に驚いた。
ブータンの人たちもこれから今まであまり必要なかった競争心や妬みや嫉み、ありとあらゆるねじれた気持ちの世界を生きるのだろう。
そしてやっぱり「幸せ」は何だったのだろうと考えるにちがいない。
精神世界が深まるのは悪いことではない。人間社会が発展していろいろなことを産み出した。映画もその一つ。不可逆的なこの社会、鎖国を解いて遅れてやってきたブータンの人々に、先進国が重ねてきた様々な失敗を学んで軽やかに飛び越えて進んでほしい。
供物
穴へ捨てるシーンはジョン・レノン御存命なら喜んだだろうな
「世界一幸せな国ブータン」
火種
2006年第4代国王の退位により、民主化されることになったブータンの田舎の村で、模擬選挙を前に混迷する村人たちと銃を巡るドタバタをみせる話。
選挙管理委員が来村することを聞いたラマ僧の言いつけで銃を探す僧侶と、貴重な骨董品の銃を探してアメリカからやって来た男とガイド、そして模擬選挙にのめり込む主人を持つ家族と選挙管理委員御一行等をみせていく。
必要以上のものを望まない人達と、欲に目が眩む人達と、そんな人達の鬼ごっこだったり尊厳だったり…。
コメディだけど結構サスペンス風味も!?
選挙ももちろん面白かったけれど、銃を巡ってはコミカルさがかなり全面に出ている感じだし、どちらもコミカルさの中にしっかりと本質があってとても面白かった。
クライマックスのあの二人の表情が絶品な一作
法衣をまとった僧侶が鉄砲を肩に担いでいるという、ほんわかした雰囲気だけどどこか不思議な組み合わせが目を引く本作のポスター。このアートワークから連想できるように、物語は山に籠って修行中の老僧が弟子に二丁の銃を持ってくるように命じるところから始まります。
舞台は「民主制」への移行を控えたブータン。敬虔な信仰心と国王への敬慕に基づいて伝統的な国家体制を維持してきたブータンが平穏に民主制に移行できるか、という国家的挑戦の真っただ中にあります。この大きな変化に誰もが戸惑い、高揚してる状況で、なぜ銃という物騒なものが必要なのか。骨董品として高価な銃の入手をもくろむ外国人も加わって、ちょっとした騒動が巻き起こります。
老僧が銃を必要とした理由が明らかになった時の、腑に落ちた感もなかなか良かったのですが、「民主化」、「普通選挙」というものがどういうものなのかを、ブータンの人々のふるまいから描いている点も興味深い作品でした。
政府職員として選挙というものを知らない住民に啓蒙活動をしていく者が実は、選挙の意味を十分に理解できておらず、単純な勝ち負けにこだわっていたり、政治といった世俗的な動向から距離を置いているように見える修行僧が実は……といったちょっとしたひっくり返しを物語に実に巧みに織り込んでいます。
この、我こそ民主化の担い手、という登場人物に対するちょっと皮肉な見方は、そのまま「民主化の先輩」である国々の人々に対する、「ほんとに選挙の意味わかってる?」という問いかけにもなっていて、穏やかなブータンの風景を眺めつつお気楽に物語を楽しめる作りのようで、実は割と大事な問題に目を開かせてくれる作品でもあります。
いろいろ見どころの多い作品ですが、クライマックスのあの二人の表情、そしてそのあとのふるまいにはなかなか笑わせてくれます。案外いい奴らじゃん。
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