劇場公開日 2025年3月20日

「賛否両論!長所と短所の混在する“困った一作”」白雪姫 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5賛否両論!長所と短所の混在する“困った一作”

2025年3月21日
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鑑賞方法:映画館

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【イントロダクション】
ディズニーの原点にして不朽の名作、世界初の長編カラーアニメーション『白雪姫』(1937)を、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのマーク・ウェブ監督により実写映画化。
白雪姫を『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)のレイチェル・ゼグラー、邪悪な女王を『ワンダーウーマン』(2017)のガル・ガドットが演じる。脚本には『バービー』(2023)のグレタ・ガーウィグ。同じく脚本にエリン・クレシダ・ウィルソン。

【ストーリー】
昔々、ある城に思いやりのある国王とお妃が住んでいた。やがて、2人は1人の娘を授かる。雪の日に生まれた事から、彼女は「白雪姫」と名付けられた。
両親は、白雪姫に溢れんばかりの愛情を注ぎ、彼らは国民との笑顔と恵み溢れる日々を過ごしていた。しかし、お妃が病によりこの世を去り、残された2人は悲しみに暮れた。

ある日、城を訪れた1人の女性が居た。彼女は目も眩むほどの絶世の美女で、慎ましやかな印象から国王は彼女を愛し、やがて妻とした。

しかし、妻となった美女は邪悪な本性を表し、国王に嘘を吐いて遠征に向かわせ、国を乗っ取り女王となった。煌びやかな宝石に包まれ、ひとり贅沢な暮らしをする女王。女王は白雪姫を召使いとし、白雪姫もまたかつて両親が願った「いずれこの国を率いる女王になってほしい」という願いを忘れかけていた。

女王は魔法の鏡を有しており、毎日「鏡よ鏡、世界で最も美しいのは誰?」と問い、鏡から「それは女王様、あなたです」と答える事に満足していた。

ある日、白雪姫は城の食糧庫に侵入した青年ジョナサンと出会う。捉えられ、城門に縛られる彼を見かね、白雪姫は彼の縄を解き、僅かばかりのパンを与えて逃がす。そんな白雪姫の雪のように白い純粋な心の美しさは、鏡に「女王様、あなたは美しい。しかし、白雪姫の心の美しさには敵わない」と答えさせ、女王の嫉妬を買う。
女王は、再び自分が世界で最も美しい人になるため、狩人に森で白雪姫を殺害し、箱に心臓を入れて持ち帰るよう命じる。

森へ向かった白雪姫は、狩人の剣を前に死を覚悟する。しかし、どうしても白雪姫を手に掛ける事の出来なかった狩人は、彼女を森へ逃がす。森を彷徨い歩く彼女は、動物達に案内され7人の小人が住む家へと辿り着く。

【公開前から大荒れ!?賛否両論の問題作!】
ラテン系女優レイチェル・ゼグラーの白雪姫役起用による議論(本来、白雪姫は「雪のように白い肌」と描写されている為)、そんなレイチェルによるトランプ大統領支持者への問題発言と炎上、レイチェルとガル・ガドットの不仲説、ストーリーの改変etc.
とにかく公開前から悪い話題ばかりが上がる本作。ここ日本でも、公開後早くもネットでは賛否両論、どちらかと言えば酷評が(ネット特有の悪ノリ含め、必要以上に)目立つ。ある意味、今最もホットな一作と言える。
そんな公開前からの騒動、予告編でレイチェルが歌唱する『Waiting On A Wish』の良さから、半分怖いもの見たさで鑑賞した。

まず、本作を語る上で1番の問題となるであろう「雪のように白い肌を持つ」白雪姫の設定改変によるキャストの起用について。
演じたレイチェル・ゼグラーの問題発言についても、私は特に問題視はしていない。また、白雪姫本来の設定を「雪の日に生まれたから」と改変する様子については、「上手いな(もっと言ってしまえば、上手く逃げたな)」と感心した。
なので、これについては特に語ることはない。

次に、レイチェル・ゼグラーとガル・ガドットの不仲説。レイチェルの過去の問題発言によるものと思われ、オスカープレゼンターとして登場した際の2人の歩き方の違いからも、少なくとも良好な関係性は築いていない様子。しかし、作品にそれが反映されているわけでもなく、本作を評価する上で重要な要素にはならない為、こちらも除外。

本作における重要な要素は、やはり原作及びアニメ版ストーリーからの改変だろう。

①白馬の王子様
白雪姫を毒リンゴの眠りから救う白馬に乗った王子様が、本作では国王の名の下に女王への抵抗活動を行う元旅芸人の一座のリーダー・ジョナサンに変わっている。これは、「イケメンの王子様に救われ、見初められる事こそが女性の幸せ」という妄想を提示してきたかつてのディズニーが、昨今ではそうした価値観を自ら否定もしくは「違う道もあるよ」と示してきた流れの一つとして理解出来る。しかし、オリジナルに対する唯一の配慮か、ジョナサンが城を抜け出して眠っている白雪姫のもとへ駆け付ける際には、しっかりと白馬に跨っている。

②女王の倒し方。
私の記憶が確かならば、アニメ版では白雪姫を毒殺した女王は、嵐の中小人達により崖の上に追い詰められ、崖から落ちて命を落としたと思う。また、グリム童話版では、王子との結婚式に女王を招き、熱した鉄の靴を履かせて処刑するものもある。
しかし、本作では白雪姫自らが国民の前に立ち、城門前にて女王と対立する。女王は、魔法で生み出した剣を白雪姫に手渡し、“怒りと復讐心から自分に対して刃を突き立てるように促し、国民の前で彼女の美しい心を否定してみせる”という企てをする。しかし、白雪姫は決して刃を向けず、女王によって本来の仕事を奪われ、兵士として働かされている人々の心を解放し、女王を国から追い出そうとする。
窮地に立たされ、魔法の鏡から「あなたの美しさは皮膚の上だけ。美しい心を持つ白雪姫には敵わない」と告げられて激昂した女王は、鏡を叩き割り、鏡の魔力によって石炭のような姿に変貌して朽ち果て、鏡の中へと吸い込まれる。
白雪姫の勇敢さを示し、女王自身が自らの破滅を招くという解決法は見事な着地だったと思う。
これにより、アニメ版では大役を務めた小人達は完全に脇役となってしまったが…。あと、ジョナサンと弓の名手以外の旅芸人達が完全に空気となっていたが…。

【感想】
本作を鑑賞中、また鑑賞後に真っ先に抱いた印象は、「予算少なかったんだろうなぁ」というものだった。
アニメ版を意識するあまりか、コスプレの域を出ない衣装のデザイン。煌びやかさより安っぽさの目立つ美術やCGのクオリティ。ミュージカルパートの動きの乏しさとダンサーの人数の少なさ。そうした作品内のあらゆる要素が、本作の厳しい懐事情を感じさせ、不憫に思えた。
しかし、wikiによると本作の製作費は、何と約2億5,000万ドル(約370億円)以上という破格の製作費が投じられているらしく、驚愕した。
「名作を作るのにお金はあった方が良いが、お金で名作が作れるわけではない」という事の現れだろう。

クライマックスを武力による衝突ではなく、白雪姫の純粋な心が人々を解放するという改変は見事だったと思うし、個人的にこの選択には拍手を送りたい。しかし、せっかくのミュージカル映画なのだから、クライマックスの女王との対決は、ミュージカル演出で盛大に、そして存分に盛り上げてほしかったのは間違いない。

思うに、本作は脚本としての選択は正しかった(やりたい事は分かる)と思うが、演出という調理法が致命的に、そして悉く不味かったように思う。

ただし、女王役のガル・ガドットは素晴らしく、持ち前の美しさは「本当に世界で一番の美女なのではないか?」と思わせるだけの抜群の説得力に満ちている。

【印象的だった楽曲】
そんな本作の数少ない評価点は、楽曲の素晴らしさだろう。

『Waiting On A Wish』
ベンジ・パセックとジャスティン・ポールによる、予告編にも使用されているこの白雪姫の「I want」ソングは、劇場の大音響で聴く意味のある素晴らしい楽曲だった。この一曲を聴きたいが為に劇場に足を運んだと言っても過言ではないくらい、特にサビのメロディーは最高。レイチェル・ゼグラーの歌唱も素晴らしいものに仕上がっていた。
この一曲を生み出しただけでも、本作の存在意義・製作意義はあったように思う。

『All Is Fair』
女王唯一の歌唱曲。女王の欲深さと邪悪さがよく現れた一曲で、これもまたお気に入り。しかし、女王の楽曲がこれ一曲だけというのは、どういう事なのだろうか?もしかすると、演じたガル・ガドットが歌が苦手なのかもしれないが。

『Heigh-Ho』『Whistle While You Work』
フランク・チャーチルとラリー・モリーによるアニメ版からの楽曲の使用も、有名曲ならではの長所を活かした選択だった。こうした事が出来るのは、「流石ディズニー」と言わざるを得ないだろう。

【同じミュージカル・ファンタジー映画として】
ところで、私事なのだが、本作と同日に『ウィキッド ふたりの魔女』(2024)を鑑賞した(しかも、本作の上映時間までの時間合わせの目的で)。現在、日本では両作を同時に劇場鑑賞する事が可能である。せっかくなので、ここからは少し同じミュージカル・ファンタジー映画として、あちらと色々と比較しながらレビューしてみようと思う。

①製作費
あちらが製作費1億5,000万ドルに対し、本作の製作費は約2億5,000万ドルと1億ドル以上も製作費が掛かっている。
しかし、どうだろうか?第97回アカデミー賞で、美術賞と衣装デザイン賞を受賞したあちらの方が、本作より遥かに煌びやかでゴージャスに映り、「金掛かってるなぁ」と思わせるのだ(あちらの製作費が少ないのではなく、本作が意味不明に多過ぎるだけなのだが)。

本作がアニメ版の実写化に注力するあまり、特に衣装が単なるコスプレの域に収まってしまっているのに対し、あちらはどの衣装も独創性に溢れ、バラエティに富みオシャレな事が要因だろう。

②ミュージカルパート
これは最早比較する事すら残酷だが、やはりあちらの圧巻のミュージカルパートを鑑賞した後では、本作のミュージカルパートはお粗末な印象を受ける。こちらの動きの乏しさは、衣装と同じくアニメ版に引っ張られ過ぎた事に起因するのかもしれないが。

③楽曲
これに関してだけは、個人的には本作に軍配が上がったと思う。純粋な楽曲としてのクオリティに関してだけは、ディズニーはその威厳を保ったと言える。しかし、決して大差があるわけではなく、あくまで個人的な趣味による僅差の勝利なのは断っておきたい。

【総評】
賛否両論も納得の、長所と短所の混在した「困った一作」だった。その際たる要因は、演出によるものだろう。また、衣装デザインをはじめ、ビジュアル面にはもっとオリジナリティを出しても良かったはずだ。何故なら、脚本は原作やアニメ版から改変したのだから。
最後に、これは完全に個人的な趣味だが、レイチェル・ゼグラーにショートカットは似合わない。『ウエスト・サイド・ストーリー』や『シャザム!〜神々の怒り〜』(2023)でのロングヘア姿こそ、彼女の真骨頂であり、最も魅力的に映る姿だったように思う。

緋里阿 純