「世界征服をやめない」世界征服やめた 桜の季節さんの映画レビュー(感想・評価)
世界征服をやめない
映画としての良さは正直、分からなかった。
ただ50分という、映画にしては短い尺にしたのは正解だと思う。
飽きることなく、飲まれることなく見終わることが出来た。
鬱々とした日々を淡々と、でも少しずつ確実にすり減らしながら生きる彼方と星野。
毎朝同じ場所で待ち合わせ、同じ場所で別れる。
一見楽しそうに見える星野の心の穴は始めからぽっかりと空いて見える。
最後の「人のために生きなさい」と両親に言われ、そうしてきた というような台詞から読み取れるように、星野には常に苦しそうな彼方よりも抱えているものがあった。
ただ、こういう性格の人は基本、何も言わず普通に別れてそのまま飛び降りた、というオチになりがちなところ、彼方に「明日はなんの日だと思う?」「俺が死ぬ日」と言うシーンは衝撃的だった。
ただ彼方にとってはいつもの彼の軽い言葉だったのだろう。
居酒屋で1人目覚め、いつもの道で笑っている星野を見た時、たまらなく苛立って罵った。
いつもみたいに何か言えよ、と言ったのが最後だった。
言ってしまった後悔からか、罪悪感からか、反対の道を行く星野を振り返る彼方。
でも彼は相変わらず飄々とけんけんパをしていて、心配して損した、という表情を浮かべて家路を行く。
星野は宣言通り死んでしまうし、世界征服をやめてしまった。
ここでの 世界征服 をどのように捉えるかは見る人によって違うと思う。
何一つ掘り下げることなく表面だけが広がる物語に若干の浅さは感じつつ、伝えたいことだけを伝えた、というような感じがしてそれはそれでいい。
あと、萩原利久目当てに見たのですごくよかった。
真っ黒のスーツに身を纏ったスタイルの良い彼は、不思議なほどこの映画に溶け込んでいた。
言葉こそ少ないものの、感じているものはちゃんと伝わってきた。
ありがとう、北村匠海