劇場公開日 2025年1月10日

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「タイトルの呪縛」エマニュエル うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5タイトルの呪縛

2025年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

オリジナルの『エマニエル夫人』は未鑑賞。監督の前作『あのこと』が良かったので鑑賞。
舞台は現代。自分の今後に疑問を抱いたキャリア女性の心の隙間に、出張先の非日常が忍び込んで来る物語。

『エマニエル夫人』から50年経てば、類型作品は巷に溢れている。
キャリア女性がふとしたきっかけで欲求の箍を外す姿=女性の解放、とする切り口は最早ありふれている。フランス女性がアジアの地元民しか寄り付かないような街角で、フランス語どころか英語も話せないような相手と=タブー破り、という点も目新しさがない。女性の導き手を女性にしているところも定番になりつつある。

主人公エマニュエルの表情が退屈・満たされないというより不機嫌に見え、彼女の素の表情を覗いているはずの観客にも壁を作っている気がした。監督のインタビューによると、作中の様々な要素について、あえて既存の女性を主役にした官能映画の逆を選んだ構成にしているようなので、それも意図したものなのだろう。

良かったのは、風景や背景のにおいや温度・湿度が伝わるような映像だった。家具や植物の艶、壁のテクスチャやガラス窓の少し奥、雑然としたホテルの外の街並み等を時間をかけ精彩に撮った画からは、本来スクリーンからは伝わらないものが伝わってくるような気がした。引きの映像と天井の高い場所を多用してエマニュエルを小さく映し、ホテルの中の閉塞感を強調した画作りも良かった。

オリジナルの『エマニエル夫人』の要素をいくつか抜き出し、監督のオリジナリティを入れた結果、古くも新しくもない、かといってアート系にも突出しないものに留まってしまった気がする。
現代女性の官能や解放をキラキラしたものとして描かない点は新しいのかも知れないが、それは解放というポジティブ描写やフィクションに求められるものなのか、という疑問が残った。

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うぐいす
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