劇場公開日 2025年1月17日

「黄昏の香港を背負いつつ、しかし映画とアクションに対するエネルギーがあふれ出ている一作」トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0黄昏の香港を背負いつつ、しかし映画とアクションに対するエネルギーがあふれ出ている一作

2025年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

噂に聞いた九龍城砦ってどんなところかと思いながら観始めたんだけど、バラックが積み重なった迷宮のような構造と毛細血管のように壁面をはい回るおびただしい電線、雑然というか混沌を極めているのにそこに生きる人々の生活がちゃんと成り立っている状況、などなどに冒頭から圧倒されました!

本作が香港アクション映画の最高峰の一つであることは疑う余地もありませんが、同時にスラム街を表現した美術面でもトップレベルの作品であるとも言えそう。電線マニアでなくとも、この描写には思わず見入ってしまうでしょう。

そしてこの圧倒的な九龍城砦が単なる背景にとどまる訳はもちろんなく、谷垣健治アクション監督による香港のアクションスタントを知り尽くした演出は、垂直構造と狭隘な閉所という空間的特徴を存分に活かし切り、見たこともないようなアクションを現出させました。

主人公チャンを演じたレイモンド・ラム、彼を庇護するロンを演じたルイス・クーらをはじめ、若手ベテラン問わず俳優たちが息もつかせないような集団アクションを見せれば、サモ・ハンもまた堂々とした悪役っぷりを見せつけるだけでなく、ブルース・リー直伝のアクションを長丁場で披露するという香港アクションのまさしくてんこ盛り。

ハリウッド大作映画と比較にならない低予算であるにも関わらず、リッチとしかいいようのないアクション映画を作り上げたソイ・チェン監督の手腕は見事です。

大興奮・大満足の作品なんだけど、ネオンサインを模したタイトルデザイン、争奪の対象なのにすでに消滅が運命づけられている九龍城砦自体の佇まいなど、やはりどことなく黄昏の様相を漂わせているところがあります。だが感傷に浸ることなく、たぎるエネルギーを爆発させることで香港映画人としての存在を強く主張するあたり、香港の中国返還直後に香港映画の底力を見せつけた『インターナル・アフェア』(2002)の制作経緯と本作が妙に重なり合って見えるのでした。

本作を楽しんだ方には、サモ・ハンら香港映画のアクションスタントを背負ってきた映画人の人生とその功績、そして香港映画界の現状について描いたドキュメンタリー作品、『カンフースタントマン 龍虎武師』(2021)の鑑賞をぜひお勧めしたいところ。本作が一層味わい深くなること間違いなしです!

yui