「シンプルながら深みある青春ロマンス」今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルながら深みある青春ロマンス
小西と桜田の恋愛ストーリーかと思っていたら、物語はそう単純でもない。彼らの成長ドラマであり、大切な人を失うことの後悔と悲しみのドラマであった。
映画のタイトルから何となくキラキラ青春物か…と勝手に想像したのだが、実はそうではなく、この年頃が抱える不安や葛藤を丁寧に掘り下げた大変見応えのある青春ドラマとなっている。どこか所在なさげで常に孤立感を抱える小西たちに自然とシンパシーを覚えながら、最後まで興味深く鑑賞することが出来た。
まず、良かったのは音の使い方である。雨の音やチャイムの音、テレビを最大音量にしたら?という問いかけ、ポストに入れる鍵の音。また、スピッツの楽曲『初恋クレイジー』の使用も気が利いていた。これらの音の演出は、小西と桜田の関係、更には小西とさっちゃんのすれ違いの関係を上手く演出していると思った。
中盤で小西と桜田の心の声をシンクロさせる音の演出、蕎麦のすする音や胸の高鳴りを『ドキドキ』とわざわざモノローグ風に表現するあたりは、少々遊びが過ぎるという気がしたが、こうしたユーモラスな演出は本作の一つの妙味に思える。
また、小西役・萩原利久、桜田役・河合優実、さっちゃん役・伊藤蒼、3人の演技も実に素晴らしい。夫々に長い一人芝居が用意されており、本作の大きな見所となっている。いずれも引き込まれるような演技に目を見張った。
更に、本作にはストーリーを転がすための様々なアイテムが登場してくる。小西が常に携帯している日傘、大学近くの名物犬さくら、喫茶店のオムライス、ヘッドフォン等、これらアイテムの使い方も実に上手く、シナリオの構成という点でも感心してしまう。
基本的に演出自体はオーソドックスにまとめられているが、所々に凝った映像も見られる。
例えば、冒頭の土砂降りの雨の中をヘッドフォンを付けて歩く桜田(?)の後姿、晴天の中を日傘をさして歩く小西の後姿。この対比からして面白いのだが、他にややフェティッシュな映像演出も見られる。宙に舞う犬の毛、空から降って来る雪の結晶、揺れる照明器具の紐といった繊細な描写は映像感性という点で嘱目に値する。
また、途中でスクリーンの画額が急に変わる場面が出てくる。その意図については今一つ理解できなかったが、きっと何らかの意味があったのだろう。
いずれにせよ、全体を通してよく考えられているシナリオであり、演出も含めて感心してしまう個所が多い作品だった。
その反面、残念だったことが2点ある。
一つは終盤の”ある演出”である。詳細は伏せるが、果たしてこのシリアスな場面でこの演出はどう受け止めればいいのか…。ここまでとても良い流れてきていたのに、この部分だけまるでシュールなコントを見ているかのようで、自分はかなり戸惑ってしまった。また、ここはバイト先の銭湯の店主の立ち回り方にも疑問を持つ。
もう一つは、途中で2度ほど登場する武器輸出反対デモのシーンである。これがストーリーのノイズになってしまった感が否めない。テレビやラジオからはパレスチナのニュースが流れ、明らかに何らかの意図を持って出しているのは確かなのだが、メインのドラマに絡んでくるかと言うとそういうわけでもない。この中途半端な描き方は感心しない。
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