「善良な人間を身分証無いだけでまともな暮らしさせないって社会の損失」Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
善良な人間を身分証無いだけでまともな暮らしさせないって社会の損失
両サイド、どちらにも中年男性が座っている状況で鑑賞。
映画終盤、両サイドから中年男性のすすり泣く声が聞こえてくるという特殊な状況に遭遇。
そんなわけで、本作は「泣ける映画」を求めている人に超おすすめ。
主人公はマレーシアの首都・クアラルンプールに住む兄弟。
兄のアバンはとても善良な人間なのに、父親が原因で身分証明書を持っていないため、まともな公共サービスを受けることができず、警察の検挙に怯えながら暮らす日々。
不法滞在者を拘束するため、警察がスラム街にあるアパートの住居を次々とこじ開けていく場面は、アメリカでトランプ再選後に行われている不法移民大量摘発を連想。
事態を改善したいNGOの職員が政治家に直接陳情してもまともに取り合わず。
役所に請求してもたらい回し。
政治が何の役にも立っていないことがわかる。
善良な人が報われない社会ってどうかと思う。
でも2022年公開の日本を舞台にした映画『マイスモールランド』も似たような話だったような…
弟のアディは兄と正反対の性格。
子供が教育を受けずにそのまま育った感じ。
身勝手で乱暴で楽して稼ぐことしか考えてない。
彼の振る舞いにうんざりさせられる場面ばかり。
でもこういう人間、世の中に多い気がする。
この映画を観れば、身勝手な振る舞えがどんだけ人に迷惑かかるか、客観的に認識する良いきっかけになると思う。
兄からすれば、弟が身勝手すぎるという不幸を背負っているわけだが、絶対に見捨てないのが凄い。
兄と弟が戯れ合うところでジーンとくる。
後半は『容疑者Xの献身』を思い出した。
兄のアバンは耳が聞こえないため手話を用いて生活しているが、映画後半での手話の使い方が素晴らしく、巨大な感動を生み出していると思った。
クライマックスで兄弟が対話する場面。
切実な思いをお互いがぶつけ合うシーンだが、手話でやり取りをするため、字幕に出てくるメッセージはとても熱いのに、劇場内は静音。
まるで魂で会話しているような感じがして、メッセージがより心に響いた。
両サイドの中年男性が泣くのも納得。
他の映画だと、クライマックスになると作り手が伝えたいメッセージを役者が号泣しながら長々と怒鳴り散らかしたりする場面がよく出てくる(特に日本映画)。
個人的にそういうのを見るとすぐ感情的になる幼稚な人に思えて萎えてしまうが、今回のクライマックスは凄いと思った。