「何者でもない僕ら」ネムルバカ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
何者でもない僕ら
誰しもが通る季節のような気がする。
全編通して感じるのは"自分の背後から崩れていく崖"だった。
主人公達は日常を消化していく。
その都度その都度、色んなモノと向き合って、諦めてる事もあれば、傍観してる事もあり、しがみついてるモノもある。その時に持つ最大限のキャパシティを持って答えを絞り出す事もあれば、刹那的な感情に委ねる事もある。
鏡を見ているようだった。
あの頃の自分と重なるシーンが多々ある。
その季節を通り過ぎた自分としては、消費されてく時間が有限にも思える。
一生懸命やってたはずだ。
でもきっとコスパは悪いし、何が最適だったのかも分かってはいない。
主人公達を通して、自分の過去に言い訳を探してるような気分にもなる。
きっと、観る人によってはホラー映画にも見えるんじゃなかろうかと思う。
先輩が成功を掴んでからは特に。
それまでの主人公達の境遇は、最下層から空を直視する権利も与えられずチラ見するだけで、有象無象の中でギクシャクしながら漂ってるみたいだった。
そんな無自覚なのか無視なのか、明らかにのしかかっていく圧迫感を久保さんも平さんも好演してた。
長い長い前振りで、迷走している自覚もないまま過ぎてく時間をどう処理していいのか困惑する。
夢や目的を具現化する隣人の存在は、自分を見直すにはまたとない機会ではあって…なるべく、なんなら必死に無視してた事が浮き彫りになってくる。
アレはキツイだろうなぁ。
最後の「ネムルバカ」は渾身のさよならだった。
置き去りにしていった者達への決意表明であり、謝罪であり感謝であり、別離だった。
今までの時間がフラッシュバックしてくる。
迷走した日々を昇華させてくような潔さを感じてた。
そして彼女は失踪する。
大人な判断を下してはみたものの、彼女自身が大人にはなりきってなかったのだと思われる。
青臭いとは思わない。
当然の反応だと思う。バカだと言われようが何だろうが、飲み込みきれないものはしょうがない。
振り向いた久保さんが笑顔で良かったと思う。
決してハッピーエンドの話じゃないけれど、前を向こうと思えるラストだった。
にしても…巧妙な脚本であり演出だった。
ジワジワと首を絞められてるような気はするんだけど、触感はなくて…ずっと久保さんの首にかかってる縄だけが見えてるような感じ。
当事者達には当然見えない。
なんだか凄く残酷な状態にも思えるんだけど、全員この季節は通るし、この状態を普通に経て生きている。
むしろ、大人への面接試験みたいなものだ。
コメディっぽい装いだけど、結構辛辣な、何なら磔にでもされたような強烈な作品だった。
…穿った見方だとは重々承知している。
この作品が「警鐘」にも思えて仕方がない。
主人公の久保さんが置かれている環境なんだけど、そこそこ楽しげだ。お金は無くて生活は苦しいけれど、ちゃんとした生活が出来るように努めてるし、ご飯は食べれてるし、笑ってもいる。
彼女には目標も夢も無いようには見えて…それは持てないのか、持たないようにしてるのかは分からない。
ただ、先輩という他人に自分の何かを投影してる風だし、応援という言葉で誤魔化してるようにも思う。
一体、誰の事を言ってるんだろう?
青春ってカテゴリーにだけ適用される状況でもないように思う。
映画だから、彼女達の人生を第三者的な視点で見る事になる。
そこで繰り広げられる心当たりのある心情やエピソード…自分のこれまでを俯瞰してるような錯覚にもとらわれる。
また、当事者の立場を強制的に剥奪され、客観視もできてしまう。
「それでいいの?」
と、甘くない現実を突きつけられてる気にもなった。
ベイビーワルキューレと比較されるけど、全然別物だ。
こんにちは。
私がこの作品から感じた何とも言えない落ち着かなさ、裏テーマみたいな所を全て書いてくれていて、そこを理解出来たような気持ちになりました。
さすがのレビューですね。