「老いるということ、その認知の乱れを巧みに描いた作品」敵 Toruさんの映画レビュー(感想・評価)
老いるということ、その認知の乱れを巧みに描いた作品
映画「敵」
筒井康隆の同名小説を、吉田大八監督が映画化、2024年の第37回東京国際映画祭コンペティション部門において、東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠受賞ということで、期待して臨む。
主人公の儀助は、大学教授の職をリタイア、妻に先立たれているが、かつての教え子たちとの交流もあり、日々穏やかな生活を送っている。
年金と預貯金を計算、同じように生活できるであろう終わりの日を決め、遺言書をしたためつつ、その日に向けて淡々と暮らす老人。
その毎日のルーティンは、映画PERFECT DAYSの役所広司とも被る。そして毎日几帳面に暮らし、買い物をして美味しそうな料理を作り、ひとり食べる姿は、自分のそう遠くない将来をも予感させる。
そんな独居老人の儀助の前に、「敵」という得も知れないものが現れ、現実と妄想が交錯するカオスな展開。
もしかすると、それ以前から認知に乱れが生じていた可能性も多々あり、、、
舞台は現代であるが、モノクロ映像で描いたことにより、小津映画かのような、味わい深く映画らしい世界にどっぷり浸かることができる作品。
主人公の儀助を演じた長塚京三のキャスティングがドンピシャ。助演の瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、彼女たちが見せる妖しい演技が、儀助の心の乱れをスクリーンにあぶり出していく。河合優実のファンとしては、そこも楽しめる要素。
特筆すべき点としては、前半に出てくる様々な料理が、モノクロながらもとても美味しく見えること。そして一軒家に住み、一般の老人より恵まれた環境の中、悠々と暮らす一人の老人が、乱れた心持ちの中、妄想と現実の狭間を生き、時に卑猥なことまでを頭に描いていること。
それらのどこまでが現実で、どこからが妄想か、観ている者にとっても掴みどころがないまま、巧みにスクリーンに映し出され、最期の時を迎える。
老いるということ、そこに突如現れる妄想や認知の乱れを上手に描いた、映画好きにお勧めの映画