「マズローの欲求五段階説」敵 さいてょさんの映画レビュー(感想・評価)
マズローの欲求五段階説
丁寧にと言えば聞こえは良いが、他者の意見を受け入れない自分のルールでガチガチの独居老人の崩壊の要素をマズローの欲求五段階説から観察したい。
生理的欲求:生存のための基本的な欲求で、食欲や睡眠、呼吸、性、苦痛回避など
→前半では飯テロの如く旨そうな調理シーン、朝は目覚ましもなくベッドで6時ちょうどに起き、健康診断に行かないという苦痛回避。かつての教え子に感じる色香に陽気になる程度の理性をたもつ。
これが、カップ麺あんパン、酒と血便で壊される睡眠と健康。通院による苦痛。生徒への内的理性の崩壊。
安全の欲求:心身の安全性を確保したいという欲求で、健康や経済的安定性、社会福祉など
→月間の収支から貯金がそこつく日を計算することで、経済的な安定、入院等の健康寿命問題からの解放、死する恐怖のコントロールを図る。しかし女学生への援助により切り上がるXデー。
社会的欲求:集団に所属したい、仲間を得たいという欲求。家族や友人関係、企業などの組織などが含まれる。
→配偶者の死も乗り越え、行きつけのバーで会う友人との会話もある。そこから、友人は死に
妻への後悔が噴出。
承認欲求:仲間に自分の実力を認められたいという欲求
→教授として尊敬され、講演をし、連載をもち対価をもらう。バーであった女の子には権威を認められた上で尊敬される。そもそも家を守っている。という状態から、講演依頼はなくなり、連載は打ちきり、渾身のフレンチを振る舞う人もいなくなる
自己実現の欲求:最終的に自己実現に至るという欲求
→自分のルール中で尊厳をたもったまま死んでいく予定であった主人公が、あらゆる崩壊により認知する世界が歪んでいく。
これらの欲求とその裏返しの恐怖がこの作品の根底に流れる。時には虚構に欲望が見えることもあれば、恐怖(敵)が現れる。はたまた時には、現実に欲求を過剰に刺激するものがあれば現実に絶望する。
この虚実の入り乱れを、吉田大八監督によって見事に描く。
そんな崩壊した主人公が納屋という子宮で空襲を聞きながら飛び出し敵と向き合うラストも秀逸であった。