劇場公開日 2025年1月17日

「夫に先立たれた妻が主人公なら、タイトルは…。」敵 のりたまちびさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0夫に先立たれた妻が主人公なら、タイトルは…。

2025年1月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

最多の世帯形態は単身世帯で、3割を超える現在。
「敵」は、ひとり暮らしの元大学教授 儀助の生活を描く、白黒映画。
原作者の筒井康隆さんのSF作品が好きで、侵略モノかなと思って観に行ったら、思っていたのと全く違ったけれど、これはこれで面白かったー!

儀助は、妻 信子亡き後、美しいけれど高齢者には住みにくそうな日本家屋でひとり暮らしをしている。
儀助は日々丁寧に暮らし、元教え子 靖子などが仕事がらみながらも訪ねてくる。
若く美しい靖子のために、儀助がこじゃれたフランス料理を頑張って作る姿は、微笑ましかった。
やはり、手の込んだ料理は、誰かのためにでないと作らないよね。

冷静に考えれば、70代の男性は、バー夜間飛行のスタッフの女子大生 歩美のように、恋愛対象ではなく、ATMのようなもの。
けれど、その辺が分からないところが老い、なのだろうか。

信子と靖子が、儀助の妄想の中でケンカするシーンがあるが、それは彼の願望だろう。
私が信子なら、財産分与をきっちりして、喜んで靖子に譲るけれど。
儀助のかわいく愚かな面に、笑ってしまった。

儀助は、何も肩書のないひとりの高齢者である自分ときちんと向き合わない。
意識も環境も、今の自分に合う形にアップデートすることなく、遺産相続人に指定した甥にさえ、できるだけ現状を維持することを望む。
彼は、死ぬその時まで、人生の最盛期の残り香を手離したくないと思っていたのだろう。
だから、「敵」の幻想におびえていたのかもしれない。

もし、信子が儀助を見送り、この家にひとり残っていたなら、どんな話になっていただろう。
屋敷や蔵書を売り払って、そのお金で立地の良い50㎡くらいの新築マンションを購入し、日々快適に暮らしていたのではないだろうか。
友達と旅行に行ったり、チョコザップ行ったり、エステで若返ったり。
タイトルは何になるだろう…「味方」?

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のりたまちび