カッティ 刃物と水道管のレビュー・感想・評価
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全国で大々的に上映されるべき映画
インド映画にしては地味な副題だな、と思ったら後半なるほどこの副題しか考えられないことがわかる。 悪人が思いがけない境遇に置かれることでそれまでの生き方を変えざるを得なくなるという構図は「ジカルタンダ・ダブルX」にも見られたように、主人公に対する見方が前半と後半で180度変わる。 インド映画「TOILET」を見て知ったことだが「インドにおいては携帯電話を持つ人口のほうが、衛生的なトイレを使える人口をはるかに上回っている」という事実に衝撃を受けたが、あれだけ人口が多くてハイテク化が進んでいてもいまだに取り残されている地域が多い。都市部と地方の格差というのは思った以上にあり、特に地方の農業従事者が企業の横暴によっていかに苦境に置かれているかは是非本編を見て欲しい。(欲を言えばパンフレットにもこのあたりの補足がもっと欲しかったところ) 都市と地方、企業と農民の対立などの社会問題をエンタメと絡めてしっかり描く演出が見事。地方出身者や農業従事者はより刺さりそうな内容である。 前半、個人的に某インド映画のオマージュと思われるヒロインの台詞にはクスッときてしまった。 何故公開館がこんなに少ないのか。これは全国で大々的に上映されるべき映画だろう・・・上映館が少ないのが悔やまれる。 ところでアメリカの大手コーラ会社って・・・あれだよね、どうかんがえてもコカコーr・・・おやこんな時間に誰か来たようだ(ry
「荒唐無稽」と言うなかれ!
この映画を見てインド警察のあまりの無能と無法ぶりに「荒唐無稽」と思う向きもあるかもしれない。ハナシを進めるために盛ったんだろうと。刑務官も同様、脱獄18回の脱獄王に刑務所全体のブループリント見せるなんて正気の沙汰とは思えない。だがインド映画を見続けているとこれらが至って通常運転であることが分かる。インドの司法は有名無実。金と権力にものを言わせればどうとでもなる世界がそこら中に広がっている。 日本人が想像しやすいそれに似た社会はたぶん昔の西部劇とかマカロニウェスタンの世界だろう。保安官が有力者に金で買われ、農民や小さな牧場主達が何かと搾取される中、早撃ちの風来坊が現れて悪漢を全部倒してくれる、みたいな。この世界観、わりと南インドのアクション映画が踏襲していたりする。インドの主人公は銃ではなくもっと素朴な武器で戦うのだが。 これはウェスタンであるとはっきりうたっているのが現在公開中の『ジガルタンダ・ダブルX』。話題作なので見た人もいると思うが実は『カッティ』との共通点を挙げる人も多いのだ。 例えば世論を盛り上げて自分達の味方につけるために映像を利用するところ。 世論の支援が必要なのは、権力者に簒奪されようとしている自分達の土地を守るため。 まあこの二点以外はほとんど似通ったところのない作品ではありますが、もうひとつ、ウェスタンにインスパイアされているというのも共通点なんですよ。 『ダブルX』の場合は言うまでもなくクリント・イーストウッドの『夕陽のガンマン』ですが、『カッティ』はもっと古い。古すぎて今では知る人ぞ知るの映画になってしまった感もありますが、かつては西部劇不朽の名作と言われれば真っ先にこれがあげられたものでしたよ、『シェーン』。「カムバック、シェーン」という有名な台詞で一世を風靡したらしい。 物語といえば上に書いた通り。未亡人であるヒロインの幼い息子君の「僕たちとこの土地を守って」という願いをかなえるように現れた主人公が、ラストに観客全員の期待であったヒロインと結ばれることを拒んで立ち去っていくのが有名な台詞につながります。叫ぶのは息子君ですけど、それはヒロインと観客全員の気持ちの代弁でもある。 たぶん『カッティ』はこれに触発されている。或いはその後鬼のように作られた類似の作品群にかもしれないけれど。 でも祝祭的なパレードで終わりにすることもできたのに『カッティ』がそれを選ばなかったのは、どちらが人の心に残るかをよく考えた結果なのだろうなと思います。10年前とはいえ現代の作品なので『シェーン』のように直接的な訴えができないのがより切ないのです。 ハッピーエンドを望んでいた観客の期待を裏切ることによって心に僅かな傷を残す。その傷の痛みが余韻となっていつまでも残る作品。それが『カッティ』。もちろん不朽の名作です。
(オンライン試写会は常にネタバレあり扱い)普段接するインド映画とは一味違うがぜひ。
今年393本目(合計1,485本目/今月(2024年10月度)44本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。
インド映画のオンライン試写会に招いていただくとはとても幸いです(3時間級なので、リアルで体調が悪いときには、映画館予約時には選択から外すことが多いので)。
冒頭こそ、刑務所から脱走といったお話が出てきますし、そこからどこかの街に逃げる逃げないの空港で、インド映画お約束のダンスが出てくるなど、ダンスシーンに関してはRRRより多いかなといったところです。
ただこの映画は「楽しさ」と同時に後半は、当時の(この映画は2014年作である点注意)のインドの問題に踏み込んでいる部分があります。
公式サイトのほうにはちらっと書かれていますが、「多国籍企業vs農家で、農家がまともに仕事ができなくなる」「多国籍企業が適切な水の使用をしないため農家がこまってしまう」、さらには他国も巻き込んで(インドを基準とした)外国人を外国人雇用させてパスポートを取り上げるなど(←勝手に帰ることができない)、インドの安い物価により儲けようというものがいるのは、映画内で描かれているのは多少誇張はされているでしょうが、そういった論点が「存在しうる」という点についてはわかります(かつ、実際に色々調べると、特にインドがIT国家として知られるようになった2010年以降、こういった摩擦は程度の差はあれ起きている模様)。
その中でも、映画のタイトルにも一文字含まれている「水道管」の「水」、つまり「水問題」についてがテーマとなっています。どうしても大手の企業(映画内では「コーラの企業」とは出てくる。「コーラ」を普通名詞として見るかは難しいところ)による工場の場合、ダムなどにある水の取り合いになり、そこで農家が不利になることが多いのであり、映画内ではその戦いを裁判シーン(この点後述)も踏まえて色々描かれています。
インド映画といえばチャンバラ等アクションシーンが多いのがお約束かなという向きもあり、その要素もありますが、明らかに映画の趣旨は「(水資源を好き勝手に使う)問題提起」にあります。
なお、一般指定でもあり、殴る蹴るなどのシーンはいくつかはありますが、配慮はあります。また、インド映画お得意の例の左下の警告は一切出てきませんでした。まぁそういう例の「謎の警告」が好きな方はちょっと今回残念でした、ということで…(あれが好きで行くのって私くらいかなぁ)。
採点に関しては以下まで考慮したものです。
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(減点0.3/裁判所に関する描写について字幕の説明が欲しかった)
このように環境法(「環境法」という法律がなくても、環境に関する法を総称してそういいます)の裁判は、しばしば行政事件訴訟法の扱い(日本相当)になることがあります。ただ、この映画ではどちらか不明です。
一方で、日本の進め方と明らかに異なる部分があるようで(後述)、字幕の追加説明などあればなぁ、といったところです。
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(減点なし/参考/日本とインドの裁判の進め方)
例えば、AがXとYにお金を貸したのに返さなかったので裁判になったという例を考えます。Aが原告、XとYが被告になります(純粋たる民事訴訟を想定)。
このとき、裁判は進行して「証拠があるのだから、それぞれ50万円ずつ支払え」といったような裁判はありえます。しかし、「裁判に登場していない」Zさんを巻き込んで「Zが100万円払え」というような判決は出せません。第三者を巻き込むことはできないという大原則があるからです。
この点、映画の展開と整合するように見ると、日本基準で見ると裁判の進行がおかしくなるので、何か適宜省略されている部分があるか、日本とインドとでは法制度が異なるのかな…といったところです(ただ、裁判の進め方やそのやり取りからすると、ジャンルとしてはおそらく日本でいうところの行政事件訴訟法相当のではあろうと思われます)。
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