「感情に流された母、現実を見ていた息子、その先にあったのは何?」山逢いのホテルで Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
感情に流された母、現実を見ていた息子、その先にあったのは何?
2024.12.3 字幕 アップリンク京都
2023年のスイス&ベルギー&フランスが合作の映画(92分、R15+)
避暑地のホテルでアバンチュールを楽しむ母親を描いたヒューマンドラマ
監督はマキシム・ラッパズ
脚本はマキシム・ラッパズ&マリオン・ベルノー
原題は『Laissez-moi』、英題は『Let Me Go』で、「放っておいてください」という意味
物語の舞台は、1997年の夏、スイス・ヴァレー州にある山麓のホテル
毎週火曜日に白いワンピースを着てそこに向かうクローディーヌ(ジャンヌ・バリバール)は、ホテルマンのナタン(アドリアン・サヴィニー)から情報を経て、もう少しで帰る男性一人客に声を掛けていた
男から住んでいる街の話を聞き、自らが部屋へ誘導して情事を重ねていた
彼女には障害を患う息子バティスト(ピエール=アントワーヌ・デュぺ)がいて、火曜日だけは隣人のシャンタル(ベロニク・メルムー)に預けていた
ある日のこと、ダムの上を歩いていたクローディーヌは、測量か何かをしている男とすれ違う
男は場違いなところに場違いな服装の女がいるなと思い、彼女に興味を持った
男はドイツから来た水力発電の専門家ミヒャエル(トーマス・サーバッハー)で、ホテルで彼女を見つけた彼はアプローチを開始する
クローディーヌは彼の誘いを受けて一度限りの関係を結ぶが、その出会いはいつもとは違うものだった
物語は、クローディーヌの日常を描き、彼女が裁縫師として、服の仕立てで生計を立てていることを描いていく
だが、馴染みの客ぐらいしか相手にできず、いずれはジリ貧になることはわかりきっていた
息子の介護に従事することを覚悟していたが、そういったものがミヒャエルとの出会いによって変化していく
また、バティストはダイアナ妃の大ファンだったが、彼女の訃報がどのような影響をもたらすか想像できなかった
映画は、ミヒャエルがアルゼンチンにいくことになって、それにクローディーヌが付いていくかどうかを問われる流れになっていく
当初は家を売り払い、息子を施設に入れることを決断していたが、最後に迷いが出てしまい、ミヒャエルは行ってしまう
その後、息子の元に向かうものの、彼は施設利用者と仲良くやっているようで、家に帰りたがらなかった
束縛のある生活の中で、解放を欲していたはずのクローディーヌだったが、全てを失うことで自由を得てしまう
息子には新しい居場所があり、自宅に帰っても仕事はもう無い
隣人とは訣別したし、ミヒャエルも地球の裏側にいるようなもの
結局のところ、自分を自分たらしめていたものの正体を知ることになるのだが、彼女は女性として再出発する道すらも放棄してしまっている
制約があることの生きづらさよりは、自由すぎることの生きづらさが重くのしかかるのだが、これはそれまでの人生というものが意外とうまく回ってきたからなのだろう
いずれにせよ、人生を賭けてきたものの喪失というのは意外と埋めるのが難しい
クローディーヌは、息子、仕事、恋人の3つを同時に失っていて、それをもたらしたのが優柔不断さだったのいうのは致命的なのだろう
息子に関しては、クローディーヌの加齢とともに施設に頼らざるを得なくなるし、仕事も年々減ってきている
火曜日のアバンチュールもそのうち相手にされなくなるので、ミヒャエルとの関係は最後のチャンスだったように思える
「放っておいて」というタイトルがジワる作品ではあるものの、この結末を予想できるなら、クローディーヌの人生はもっと解放的なものだったのかな、と感じた