劇場公開日 2024年11月29日

「夢のある映画」ワン・フロム・ザ・ハート リプライズ penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5夢のある映画

2024年12月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「地獄の黙示録」で疲れ果てたコッポラが夢のある映画を撮りたいと、古い映画の総セット主義にこだわり、お金を湯水のように使ってしまったものの、莫大な投下資金の多くを回収できず、Zoetropeと本人を破産の危機に追い込んだと言われている空前の問題作。

でも私は、そんなコッポラの人生や映画に対する愛情にあふれた本作が大好きです。

公開当時孤独な20代の青年だった私は、劇場で数回鑑賞し、その後も当時高かった、レーザーディスクも購入して、60代半ばを過ぎる現在に至るまで、繰り返し鑑賞しています。

うち捨てられた、さすらいの人生の悲しみを、腹の底から絞り上げるような、トム・ウェイツの歌声が、砂漠に忽然と現れる光の街ラスベガスのまぶしいきらめきの中に、吸い込まれていきます。そしてその声に重なり、タバコの煙が揺らめくような、心に染みるピアノの透明感あふれる音色の美しさに、何度涙したことでしょう。

さらに、光の中から生まれる出てきたようなナスターシャキンスキーの華麗な美しさとラウルジュリアのゴージャスな魅力! ベルトルッチ作品で滴るような色彩美を駆使し自然の光を捉えてきたヴィットリオストラーロの撮影は一変して人工的に作り上げられた世界を美しく切り取っています。

多分多くの人にとっては、「倦怠期を迎えた冴えない男女が、周りを身勝手に振り回すだけの冗長な物語にしか見えない」(だからこけた。)と思うのですが、その冴えなさ加減が、現実の冴えなさ加減を象徴していて、逆に映画が「夢」であることを強調しているように思えてなりません。多分本作を参考にしたと思われる、ララ・ランドは綿密にその辺、計算されていて、だからこけなかったと思うのですが、私は穴だらけかもしれないが、本作の方が好きです。

大切な1本です。

pen