「みんなが言うように大傑作ということは分かった……が」この夏の星を見る 南野コミチさんの映画レビュー(感想・評価)
みんなが言うように大傑作ということは分かった……が
Twitter上で「今年イチ」「人生ベスト級」との意見を多数見かけ鑑賞。原作は未読です。
テイストとしてはゼロ年代の大傑作『夜のピクニック』て似ている。学生たちのひとつのイベントを舞台装置とした群像劇。
見初めて、確かにこれは心が揺り動かされるというシーンはいくつもあり、特に本作の登場人物たちの大目標となる「スターキャッチ」のシーンは本当に素晴らしい限りです。確かにこれは大好きという人が多い映画だと思います。私も大変好みです。
しかし、この映画の欠点と思える点が、この「スターキャッチ」のシーンがクライマックスではなく全体の三分の二のあたりに置かれていることです。
いわゆる三幕構成としての第二ターニングポイントの部分でメインの主人公といえる人物たちに係る悲劇的なシーンが置かれているのですが、
これは本作にとっての明確な役割上の敵対者である『コロナ』とは別の要因によって引き起こされる悲劇なのです。
言ってしまえばこの悲劇とは「主人公の思い人の転校」ということになるのですが、これは(劇中コロナが原因の離婚が理由とは説明されるが)コロナ自体とは全く別の障害です。
「転校してしまう同級生のために頑張る!!」というのは過去数多くの映像作品で観た展開であり、
正直、「スターキャッチ」のシーンまでにあった本作の魅力的な部分が極端に減じたように感じました。
また「スターキャッチ」のシーンとクライマックスにおける「ISSキャッチ」のシーンは、我々素人からしたら難易度の差が分かりにくいのもあります。
鑑賞者からしたらどちらも望遠鏡を覗き込み、目標にセットするという画に違いはありません。
同じ展開を二度やってるようにも見えてしまいます。
ここもなかなか上手いとは言えないように感じます。
なんにせよ、「離れている場所にいるみんなでひとつの目標を狙う」という感動的な「スターキャッチ」のシーンがクライマックスではなく、似たようなシーンである「ISSキャッチ」のシーンを繰り返している(ように感じる)のは本作の明確な弱点であるように感じました。
「スターキャッチ」のシーンをクライマックスにすれば『青春映画としては』より感動的になったのではないかと感じます。
また全体に漂う悲劇的な雰囲気。
コロナは若者の青春を奪ったという雰囲気。
もしこれを徹底するための第二ターニングポイント以降なのだとしたら、もう少しはっきりと『大人達の罪』を描くべきと感じます。
主人公たちの身に降りかかる悲劇、主人公たちから様々な物を『奪った』のは間違いなく『大人』です。
本作の画面上に登場する大人たちは皆『善き人』です。
離婚した親、旅館に嫌がらせした大人。
こういった『悪』を明確に描写し、なんらかの映画的な決着を彼らにつけさせるのであれば、『スターキャッチ』以降の展開も無駄ではないように描けると思います。
少なくとも製作者たちも「大人が若者たちから青春を奪った」という自覚は作品内からも見受けられたので、そこの色を強くする方向性もあったのではないかと思いました。
結論として、
とても魅力的な作品ではあると思いますが、後半部に関して蛇足感を覚えるような点がありました。
刺さる人にとっては確かに人生ベスト級と言わしめるほどの力がある一作ではあると思います。
良作です!!
原作の粗筋を見ると、上巻でコンテスト、下巻でISSのようですね。
自分もISSよりコンテストの方に感情を動かされました。
未読のため推測ですが、文章での説明や尺のバランス、関係描写の厚みなどが変わればISSもクライマックス足りえたのかも。
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