「他人同士も家族でも、寂しさを分かちあうことはできないものなのですね」アット・ザ・ベンチ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
他人同士も家族でも、寂しさを分かちあうことはできないものなのですね
2024.12.30 アップリンク京都
2024年の日本映画(86分、G)
4+1の構成によるオムニバスドラマで、ある河川敷の取り残されたベンチを舞台にしている
監督は奥山由之
脚本は生方美久&蓮見翔&根本尚子&奥山由之
物語は、東京のとある河川敷に取り残された「ひとつのベンチ」を中心に描かれていく
第1編「残り者たち」では、将来に悩む保育士のリコ(広瀬すず)が、幼馴染のノリくん(仲野太賀)を呼び出す中で、リコのアプローチを絶妙に交わしていくノリくんが描かれる
第2編「まわらない」では、同棲カップルのナナ(岸井ゆきの)とその彼氏カンタ(岡山天音)がホームセンター帰りに訪れ、その痴話喧嘩を近所のおっさん(荒川良々)が聞いてしまうという物語になっていた
第3編「守る役割」では、男を追いかけて東京にきた姉(今田美桜)を連れ戻しにきた妹(森七菜)が描かれ、壮絶な姉妹喧嘩が繰り広げられていく
第4編「ラストシーン」では、ベンチを調べにきた職員(草彅剛&吉岡里帆)が描かれ、そのベンチは姿を変えた彼らの父だった、という設定の映画の撮影風景だったという内容になっている
そして、ラスト「さびしいは続く」では、「残り者たち」の幼馴染二人の距離感が変わった「その後」を描いていく
映画は、ベンチを中心として展開され、「恋人未満の幼馴染」「倦怠期に入った同棲カップル」「姉妹」「家族」という異なる人間関係が描かれていた
そのどれもに「寂しい」という感情が描かれていて、「将来不安に見える寂しさ(ぬくもりの消失)」「近くて遠い寂しさ(価値観の相違)」「精神的喪失(不寛容)」「物理的距離感(納得性)」というものが根底にあるように思えた
幼馴染は距離は縮まったけど「さびしいは続く」となっていて、根本的に「寂しさが解消されたわけではない」ことがわかるのだが、この「寂しさ」というのは個人の一人称目線の感情なので、誰かによって埋められるものではないということなのだろう
ベンチは見方によっては「寂しく見える」し、「運が良くも見える」という感じになっていて、それは寂しさの暗喩的なものとして描かれている
そこに座ることで孤独を癒す者(姉)もいれば、誰かがいないとダメ(リコ)もいて、一緒に座ってもダメ(カップル)というのもいる
第4編だけは唐突な設定になっているが、1〜4編の流れを考えると「寂しさを割り切る家族」というふうにも見えるので、ある意味においては「守る役割」のアンサーになっているのではないだろうか
いずれにせよ、役者が豪華で設定も面白いのだが、さすがに絵作りがキツいのでシアター向けではないと思った
特に第4編の字幕表記がとても読みづらく、画面もかなり暗いので、ストレスを感じる人もいると思う
内容よりも完成度の観点において映画館で上映には届いていないと思うので、そのあたりをもう少し作り込めば印象も違うのかな、と感じた