金子差入店のレビュー・感想・評価
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命の差し入れ
幼女を殺害した小島が語る二割の働かない蟻の話。どんな社会でも必ずルールからはみ出す人間は存在して、そんな人間は生きる価値はないのかと問いかけてくる。
真司の母容子はどうしようもない母親で真司は忌み嫌うが妻の美和子や叔父の星田は生きているだけでもありがたいとして彼女をかばう。
美和子の両親はすでに他界しているのだろう。生きてる間しか親孝行できないからと何かと容子に気遣う。星田も今自分が甥の家族と暮らせるのは真司を生んでくれた容子のおかげだとそこだけは感謝しているという。
元ヤクザの横川は出所したそばから殺人を犯し再び刑務所に戻ってしまう。もはや人生は終わった、こんな自分は生きる価値はないとして独房で首を吊ろうとする。そんな彼に毎日のように面会に訪れる佐知。彼は自分を救ってくれた。真司が機転を利かせたおかげで面会を果たせた彼女は横川に生きてくれと何度も呼びかける。真司は命を差し入れしたのだ。
残虐な殺人を犯しなんの悪びれる様子もない小島との面会は真司には応えた。なぜこんな人間が存在するのか、こんな人間に生きる価値があるのか、できるなら自分の手で殺してやりたいとまで真司は思った。
小島との面会で精神的に追い詰められた真司にさらに息子のいじめの問題が追い打ちをかける。彼は息子を愛するあまり学校でトラブルを起こす。かつて激高しやすいその性格から過ちを犯したころの記憶がよみがえる。
こんなどうしようもない自分を妻の美和子は見捨てなかった。彼が立ち直れたのは家族の存在があったからこそだった。美和子や星田があんなどうしようもない母容子をかばう気持ちがわかった気がした。人はそこに存在してるだけで価値がある。生きる価値のない人間なんてこの世には存在しない。たとえ残虐な殺人を犯した人間であろうとも。
本作は問いかける。生きる価値のない人間なんてはたしてこの世にいるのかと。今の社会は何かと生産性だの人間の価値を数字で推し量ろうとする時代。障害者や犯罪者のような存在は社会のお荷物として何かと排除対象とされてしまう。しかし二割の蟻のようにそれらを排除してもまた新たに排除対象は生まれてくるだろう。排除対象などと考えている限りは。二割の蟻を排除し続ければやがて蟻はすべていなくなってしまうかもしれない。
人間は生きてるだけで誰かの心の支えとなっている。誰かを支えとして生きているその人はまた誰かの支えになっている。誰かは必ず誰かの支えになっているから存在してるだけで価値があるのだと本作は訴える。生きているだけで価値があると本作はそう訴えている。
本作を鑑賞して相模原事件で犠牲になった寝たきりの障害者の子供を持つ母親がただ生きていてほしかったと涙ながらに話していたことが思い出された。
本作はあえて小島のような誰が見ても忌み嫌う存在を観客の目の前に提示してこんな人間でも生きる価値はあるのかと問いかける点が秀逸だった。
地元に近い大阪都島区には大阪拘置所がある。元首相銃撃事件の犯人や和歌山カレー事件の犯人として収監されてる人物がいる拘置所のすぐ隣には普通の住宅地やら高層マンションが立ち並んでいる。
その高くそびえたつ拘置所の壁を隔てて全く異なる空間が広がっている。そしてそのそばには本作で描かれたような差し入れ店の丸の家がある。その外観はやはり本作のような普通の日用雑貨店の佇まいだ。
昔からこういう差し入れ店があるのは知っていたが、刑務所によって差し入れの規則は細かな点で異なるという。
差し入れを代行する商売があるのは理解できるが、弁護士でもないのに受刑者との面会を親族から依頼されて行うというのは現実にありうるんだろうか。特別な事例で関係者のみが認められるケースがあるにしても商売として継続的に行えるとはとても思えないし、また弁護士のような高額報酬も得られないのに生涯守秘義務を負うとか凶悪犯罪者との面会などストレスの大きな仕事を一般人にやらせるだろうか。そういう点で本作のリアリティラインをどこにひけばいいかわからなくなってしまった。
おそらく内容的には差入店に着想を得た監督によるかなりの部分創作がなされた作品なのだろう。そのせいか劇中での差入店を営む主人公たちへの周囲の偏見などはあえて物語性を高めるためなのか無理に作られた感じがする。ご近所さんは主人公の真司に前科があるのは知らなさそうだし、逆に収監された小島がなぜ真司の前科を知っていたのか。あの弁護士が喋るはずはないし刑務官が喋ったとしか思えないが、その辺も少し脚本が甘い気がする。刑務官を買収してるシーンなどあれは問題にならないのだろうか。
などなどいろいろと疑問に思うことが多い映画ではあるがそれを抜きにしても人間ドラマとしてはそのこめられたメッセージといい、役者陣の素晴らしい演技といい、総合的にみて良い作品だった。
作品ラストのラスト、壊された植木鉢を淡々と掃除する真司の姿は、たとえ小島のような人間でも受け入れた彼の心情を表したのものであろう。
期待度◎鑑賞後の満足度◎ “おかしいのは世の中の方よ”まさに正論。やっぱり女は強い。男はすぐ粉動されるからダメだね。それだからドラマになるわけだけれども。「差入れ屋」を取り上げたアイデアの勝利。
①最初に思ったのは“真木よう子、鼻いじった(整形した)?顔、ビミョーに変わってない?”ということ。「整形疑惑の芸能人」を扱ったYouTube の見すぎかも知れないけれども。
しかし、観ているうちに気にならなくなった。「差入れ屋」という稼業をしている一家のぶれないオカミサンとして背景に溶け込んでいるようで要所要所で存在感を発揮する。やはり並みの女優ではない。
②かなり凄惨な事件を扱いながらも陰惨な印象が残らないのは善悪どちらにも偏って肩入れしない脚本と演出のお陰だと思う。
③差入れする相手である収監者にこんなに肩入れしてたら商売にならないとは思うけれど、映画にする為には少し話を膨らませないとね。
④本作には色んな母親が出てくる。名取裕子の男にだらしない自堕落な母親役には少々驚いた。若い頃はすました役柄が多かっただけに。でもそこは年の功か。見事に違和感なく演じていた。ラスト、こんな母親でも少し母性は残っていたのを寺尾聰の台詞で間接的に語ったのが良かった。会わずにアパートのノブにイチゴの入ったビニール袋を掛けただけにしたのも良い。上の台詞を直接本人の口から言わせたりアパートの入り口で会ったりしたら雰囲気ぶち壊しになっただろう。余韻ある語り口はどんな映画でも宜し。
殺された女の子の母親。演じたのがあまり顔馴染みのない女優のさんだと思っていたらNHK朝の連続小説『風のハルカ』のヒロインの子だったとは。当時毎回観てたのに。面影全くなし(私が忘れてただけなのかも知れないけど…)。役に戻ると、この母親も被害者なのでこんなことを書くと冷たいようだが、私は子供がいないけれども、もし父親ならこんな小さい娘を夕方一人で塾へなんか行かせずに必ず付いていくか送り迎えするけれどもね(いくら日本が表面安全な国でも)。リアクションが被害者の母親が取りそうな範囲を出ていなくて、この母親役が一番平凡。
“ああ、この子そのうち通り魔が何かに襲られて死ぬんだろうなァ”と最初からわかってしまうところが、最初からそういう意図だったのか、それとも脚本と演出の弱さなのか。
娘に客を取らせていた信じられない毒親を通り越して鬼畜のような母親。多分悪いとも罪の意識もなさそうだから殺されても当然ぐらいだけれども知らない女優さんだけれども殺され方も含めてインパクト大。でも実際にこんな父親(こちらはどちらかというと性的虐待の方だけど)・母親がいるから絵空事ではない。
どんな映画のどんな役柄でも安定感抜群の根岸季衣扮する母親。最も難役であろう(だからこその配役だろうけど)。
息子に罵倒されても何も言わず固まっている姿に始まり、マスコミへの対応の二面性。完全武装して金子差入屋に来て“他人の子供を殺めるなんて”と泣き崩れて可哀相な母親の姿を見せたと思ったら(帰り笑顔だったところを見ると、可愛いのは自分の子供だけで殺された子供のことは何とも思っていないらしい)、“差入れをするのは当然の権利です”という言葉尻をとらえて「権利」ということばを盾に急に攻撃的に豹変する姿(こういう人居るけど)。最初は人目を気にして完全武装して金子差入店を訪れたのに、最後にあった時はキレイなベベ着て化粧までして平然と顔をさらしている。かなりエキセントリックは な性格で息子がああなったのも貴女のせいじゃないの?と言いたくなる。表面は辺りいっぺんの台詞だけなのに佇まいだけでそんな母親像を活写する流石は根岸季衣。
⑤北村匠海。『君の心臓を食べたい』の時は“わあっ、ヘタクソ!!”と思ったし、『とんび』『悪い夏』の時もも一つだったのに、NHK朝の連続小説『あんぱん』を観ていたら知らぬ間に上手くなってると思っていたら、本作でも微妙な顔・首の動きと目の演技とで最初は北村匠海とはわからないほど役になりきっていて、役者ってある時期を境に化けるもんだな、とつくづく思った。
“貴方の価値観で僕をはからないでください(だったかな?)”という台詞自体はこれまた正論だけれども、彼自身の価値観にはモチロン共感も共鳴も出来ないけれども、最後に(観客にとっても)不思議だった右目の秘密がわかったとき少し彼の内面が覗けた気がした。
ただ、何故殺人を犯したのかとの金子の質問に対して「働きアリの法則性」を持ち出して来たのか、がよくわからない。彼が犯した犯罪の説明にはならないと思うのだが…それが偏向した思想の流れから産み出されたものだとしても。
⑥岸谷五朗。最初に登場したときの、如何にもその筋の人らしい目の演技が凄い。
ただ、初めて口を開いたときキレイな標準語だったのに少し違和感。エリートヤクザだったのかな。
A)極道であること B)二ノ宮佐知が何回門前払いされても面会申請を続けたこと C)二ノ宮佐知がずっと口を利かなかったこと、これらが真相に辿り着くのを難しくした筋立ては中々良かったが、真相がどこかで観たか聞いたかしたものと変わりがなかったので正直衝撃度にかける。
ただ、母親が死んだとき二ノ宮佐知がうっすらと微笑んだところが本作で最も怖く又最も心動かされるショットだったかも知れない。
このエピソードが本作で最も作り物臭いし、岸谷五朗扮するヤーサンが唐突に良い人になるのもやや不自然だけれども、片や人生の大半を世間の日陰者で過ごしてきた人間が一生に一度人の為に自分を犠牲にしたことと、何不自由なく生きてきて(親からの偏った育て方があったにせよ)偏った価値観をとらわれて大量殺人を犯した若者とを対比させたいための作劇なのかも知れない。
また、本作を貫く主題から考えると“世間”というものが作り出した「モンスター」という意味付けもあったのかも。
二ノ宮佐知が自白しないことも、金子が真相を知りながら警察に告げないことも通常の考え方したら(良識ってヤツ?)罪だけれども、彼女が母親にされたこと、人生が始まったばかりであること、を考えるとこれはこれでで良かったのかもと思わせてくれる。
二ノ宮佐知も、自分が本当のことを言えば、自分を守ってくれた大人達(金子は彼女とヤーサンの前で“墓場まで持っていく”とまで言ってくれた、ヤーサンの耳には“言って!”“ごめんなさい”という最後の叫びが届いたのかどうか…)に多大な迷惑をかけること、想いを踏みにじることを理解したのだと考えたい。
⑦
⑧最後の最後、割られた鉢植えと黙って片付ける金子の下半身だけの姿を写して、変わらず狭量で陰湿な「世間」というものと、それに負けずに差入れ屋を続ける金子の意思のようなもの、金子差入店の日常は変わらない、ことを一瞬のシーンで物語たって見せる良いラストだったと思う。
ずっと考えてしまう
いきなりラストの感想になりますが
エンドクレジット後の植木鉢のシーン
これからもずっと他人の悪意や偏見はなくならず続いていくのだろうけれど、それをいちにち一日片付けながら、強く生きてる息子くんの足だけの描写が秀逸だと思いました。
お花も絶えることなく。
重いと見せかけて実はハートフルな物語なんじゃないかと思っていたのですが、そんなことはなく、重いものは重いまま、解決しないことはしないまま、しばらくはずっと考えさせられる余韻を残す物語でした。
なので力強いエンディング曲はミスマッチかなぁ?と感じました。
希望、にボリュームはあまり必要なくて、ほんとに鉢植えのシーンくらいの希望の暗示が良いなと。
北村匠海さんの悪役はよいですね。サイコな役柄は逆にカッコよくなってしまう映画もありますが、そうしなかった。それがとてもリアルで、訴えたいことが明確で、良かった。だってすごく薄っぺらだった。深い闇というよりは、中2病だった。片目は虐待の暗示ですらなかった。
それでないと理不尽さに説得力が出ませんから。
色々な形の理不尽が散りばめられたモヤッとする映画です。褒めです。
岸谷五朗さんが久々にバリっとかっこよかったです。
子どもは親を選べないが
この映画にはいくつもの親子が登場するが、子どもは親を選べないことを改めて思う。しかし、毒親だとか、親ガチャに外れたと言っても、自分の人生を変えることはできない。親子を含む人間関係の悩みや問題を断ち切るのは、人の優しさや思いやりである。佐和の親を除き、どの母親も子どもを大切に想っているのに、何が彼女達の歯車を狂わせるのか?美和子の考えや行動も、一歩間違えば、和真を不登校や引きこもりにも、犯罪者にもする危険性をはらんでいる。
北村匠海だと初めは気づかず、NHKのあんぱんとは全く違う役柄。最近の事件のニュースを聞いて、こういう人は増えていくのだろうと思うが、本当に怖いのは善人のフリをして、植木鉢を壊していく人たちかもしれない。
逆境の中で誰と出会うか
幼少期から虐待を始めとする難しい養育環境で育ってきた人たちの中に、感情のコントロールが困難な人は決して少なくない。
主人公の金子もきっとそうなのだろう。あの激しい感情の起伏は、人によっては理解できないのだろうが、逆境的な環境を生き抜いてきたとすれば当然とも思う。
そして、たとえ逆境的な環境で育ったとしても、その後の人生でどんな人に出会うかによって人は良くも悪くもなれるのかもしれないな、と。
差入店という仕事も興味深かった。加害者に対する支援、援助はなかなかに受け入れ難いものだが、加害者が再び罪を犯すことなく更生するには、ある種の権利を保障することも必要なのかもと考えさせられた。だからと言って小島の母のように権利を振りかざすことを良いとは思わないが…
思いのほか重たいテーマだったが、見て良かったとは思う。
父性が救う
こんな職業があるんですね
更生後の前科者がするにはうってつけの仕事です。
真司とその母、小島家の母と高史、美和子と和真、そして二宮佐知とその母
子供は母の影響にどっぷりつかって成長するんだとつくづく思った。
影響を受けた子供がどんな風に消化して成長するかは、子供の個性と子供自身の思索と、周囲によるだろう
毒母のせいで闇に落ちかけたコドモたちを救ったのは、大いなる父性を持った大人たち。
真司には叔父・星田、二宮佐知には横川、そして真司と意外なことに弁護士の久保木。
毒母では当然なくむしろ賢母(かつ良妻)だが、きれいごとばかりの聖母のような美和子に個人的に違和感。
社会が悪くても自分のほうで折り合いをつけるべき、という考えは現実的なようだがせめて子供は守ってやらなくては。息子がいじめられているのを知りながら何もしないどころか相手の肩を持つような発言に、思わず「はぁ!?」と声出てしまった。息子がいじめを苦にしていたのではなく、いじめられている弱い自分を恥じていたのを見抜いていたからなんだろうか。いじめを知った父の真司はなりふり構わず学校に怒鳴り込む。やりすぎでひやひやするが、学校は事なかれ主義だから多分大事にはしないだろうし、結果的に息子へのいじめが公になったし、いじめっ子たちはビビッてもう和真に手出ししないのではないか。
父親である真司は、行動で息子を守った。
小島母が叫ぶ、「私は20歳まで息子を『育て上げ』ました」
確かに、彼女があんな風に育て上げたんだと思う
世の中には親がどれほど手を尽くしても矯正できないサイコパスな子供はいるが、高史は母親が育てたように育ったと思える。
密室で母に育てられたらしい小島高史には、父性を持った人と会う機会がなかった。
社会が悪いのか、自分の責任なのか、ケースバイケースで一概に言えるものではないし、どちらに責任があるにせよ、大事なのは、ではどうしたら良いか、のほうだ。
父性は、コドモを社会的にうまく生き延びられるように育てる、導く、手助けする、もののように思える。どうしたら良いか、を伝え、実践するのも父性ではないか。
多分、社会経験によるところが大きいと思うので、母親が父性を持っている場合もあると思う。
胡散臭げな弁護士の久保木が、「良心」に沿って仕事をしていること、そして警察(検察?)との間で、二宮佐知の事情をくんで、売春の件には触れないことで了解したとか、その昔の八百屋お七の「お前はたしか14歳だったな」みたいな人情判断があるなら、公的機関も人間も捨てたもんじゃないと思いました。
佐知の横川への面会が門前払いだったのは、面会した佐知が余計なことを言って彼女が追及されないようにという配慮だったんではないか。
もしそうなら、他人や社会は意外と温かいなと思いました。
丸山くん、好演。
真木よう子さん、いつもとイメージが違ってて似ている他人かと思いました。
役作りのためなんですかね
岸谷五朗の横川の漢気に、惚れました。
店主の妻の強さに救われました
丸山さん演じる金子真司は拘置所に差入れを届ける差入店の店主。彼を信じて支える真木さん演じる妻美和子。真司、そしと彼の母に対する美和子の包容力と強さは母として尊敬します。
この映画に母親が5人出て来ますが、いわゆる毒親が3人。自己愛が強く男に依存する母。殺人犯の母、娘を売った母。
母に愛されなかった子どもの孤独と絶望。
「母」がこの映画のひとつの大きなテーマ。
真司の過去を全て包み込み、世間に何と言われようと自分のすることに誇りを持て。悪いのは世間だ。偏見や嫌がらせにも屈しない、被害者にならない美和子の強さに真司も彼と関わる人々も救われます。この愛情の連鎖がもうひとつのテーマだと思います。
人は弱さとどう向き合うか。どう支え合って生きていくか。観終わってそんなことを思う、良い映画です。主題歌の「抱き合えばわかる」「信じる以外に希望はない」が響きました。
本質的な人間の愛情と家族愛を見事に描き出した作品
差入店という設定が独自固有であり、またまた私の知らない世界が開けた作品。
齢50を過ぎても知らないことばかりで、映画で自分の世界が開けるのが鑑賞モチベーションでもある。
本作、主人公金子真司の服役中から始まり、そこでの妻美和子との関係性がどうなんだ!?という冒頭から
時間が飛ぶ。結構時間軸が行ったりきたりするので、集中力が必要だが、飽きさせない展開と
時間がどの時点なのかはだいたいスグわかるので、ストレスにはならなかった。
時間が行ったりきたりしながら、人物像や金子家族の解像度が上がっていくのが、実に巧みに紡ぎ上げられている。
そして実に映画的であるため、現実的なリアリティには少し乏しい気がするが、観ているうちにそれはどうでもよくなった。
俳優陣の演技が素晴らしい作品でもある。
特に真木よう子の存在感が圧倒的。その母性・愛情たるや圧巻ですらある。
主人公を演じた丸山隆平も素晴らしかった。私は今まで認識していなかった俳優だが、実によかった。
声がなんとなく小栗旬に似ていると思った。
名取裕子のやさぐれ感もなかなかいいし、寺尾聰は安心して見ていられた。
フィジカルにエンターテインすれば、もっと評点は高かったと思うが、どこか客観的にしか見れなかった自分がいる。
主人公に感情移入できなかったのがその要因だろうと思う。
それにしても、人は何故優しくなれないのかな。
こういう作品を観ても優しくなれない人っているのかな。
どうなんだろう。
少なくとも私は人に優しくありたいと、鑑賞後にはあらためて思えた。
綺麗事かもしれないけれど、まずはそこからな気がする。
エンドロール後の映像も必見!ここも時間が飛んでいる!
何を伝えたいのか見る側がそれぞれ解釈を求められる作品
予告で見た感じとても面白そうだと思い鑑賞。予告からの期待通りの作品でした。
北村匠海は先日の悪い夏での役ともまた違った感じでしたね。普段はなかなかやらなそうなサイコパス野郎の役でこれがまたハマっていたと思います。このサイコパス野郎のことが中心に進んでいくのかと思いきや中盤から後半にかけて別の事件を軸に物語が進み、岸谷五朗さんと少女の話は胸が打たれるものがありました。
自分が見た感じではこの作品、いろいろなところにいろいろな要素が散りばめられていてこれはこういうものでこういうテーマだというものを提示する感じではなく見た側に委ねられる感じがある作品かなと思いました。
なんとなく親と子、家族、つながりみたいなものを考えさせられる感じがしました。
被害者家族の悲しみの視点なんかは昨年の石原さとみの「ミッシング」を彷彿させる、というかそれをさらに酷くさせたような描写でしたね。それとは逆に加害者側の家族の視点、そして今まで母に振り回されてきた主人公。
後半に明らかになる少女の実態。
どんな親でも親は親、どんな子供も子供は子供、ただそれだけでは成り立たないこともある、血のつながりがなくても何というか絆のようなもの、救いがあることもある、なんとなくこのような要素が物語の全体として散りばめられていると考えました。
しかし主人公はなんで暴力沙汰で逮捕されたのか、植木鉢を壊してるのは誰なのか、そのあたりは詳しく描かれなかったのでよくわかりませんでした。
ま、そういうことがありながらも日常は続いていくということを表現したいから最後のカットはああなったのかな?なんて思いました。
深く考え、胸を打たれ、いろいろと感じることのできる作品です。
作品としてはとても重いものだと思います。
ぜひおすすめです!
【刑務所の収容者に日用品や手紙や書類を収容者の親族の代わりに届ける男とその家族が直面する出来事を軸に、善と悪、罪と赦し、絶望と希望を3人の愚かしき母と1人の賢母の姿を絡めて描いたオリジナル脚本作品。】
■冒頭、暴力行為で刑務所に入っていた金子真司(丸山隆平)の元に、妻美和子(真木よう子)が面会にやって来る。だが、彼は妻に対し素直になれず、妻は大声で叫んで面会室を後にする。後に分かるのだが、彼女は男の子を身籠った事を告げに来たのである。
その後、金子は出所した時に、初めて息子、和真とずっと待っていた妻と会い、叔父(寺尾聰)が営んでいた”差入屋”を引き継ぐのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作では、愚かしき母親が3人と、1人の賢母の姿が描かれる。
●愚かしき母
・1号 真司の母親( 名取裕子)。真司が生れてからずっと自堕落な生活を送っている。描かれないが、真司が刑務所に入るような性格になった一因。今でも、真司がいない時に店にやって来て美和子からお金を貰うが、若い男に貢いでいる。
・2号 二ノ宮佐知(川口真奈)の母親。自分が家で売春をしながら、娘にも売春をさせている。そして、自分を買ったヤクザの男、横川哲( 岸谷五朗)に娘を紹介するが、横川から拒絶され、且つ刺殺される。
・3号 真治の息子、和真の幼馴染の女の子を殺した男、小島高史(北村匠海)の母親(根岸季衣)。和真の行いにより、報道陣に平謝りしたり、逆切れしたり、笑いながらホースで水を掛けたりする。まるで、ヒ素カレー事件で死刑を言い渡された女の様である。息子には面会には行かず、金子真司に息子の衣料や、自らが書いた手紙を持たせ読んでもらうように依頼する。が、再後半に”アタシはあの子を二十歳まで育てたんだ!二十歳を越えた息子の罪を何で被らなきゃいけないんだ!”と本性を表す。
・今作では、この愚かしき母親2号と3号の娘、二ノ宮佐知と息子、小島高史が、人間の善性と悪性の代表として、対比的に描かれる。それにしても、小島高史を演じた北村匠海のチックが出て、右目の瞼が醜く歪んでいる表情が、物凄く不気味である。北村匠海の母親の愛なき故に出来上がった怪物の怪演は、表情と眼の演技を含めて、凄いと思う。
そして、ヤクザの男、横川哲に何度も面会に来るが拒絶される二ノ宮佐知が、それでも横川哲に面会に来る訳が最後半に描かれる。確かに彼は二ノ宮佐知の母を刺しているが、止めを刺したのは二ノ宮佐知だった事。そして、将来無き横川哲が、二ノ宮佐知の罪を被った事が描かれるのである。
〇賢母
・金子真司の妻、美和子である。彼女は夫に面会に行った時に、酷い態度を取られるも彼の子を宿していた事から、”この子の父親は、あの人だけだから・・。”と言い、男の出所を待ち、その後は夫を精神的に支えている。真司の母が金をせびりに来ても、封筒に大金を入れ差し出すのである。真司から”止めろと言っているだろう!”と言われても、”こんなことが出来るのは、今だけだよ。”と返すのである。
真司が真人間になった事と、息子の和真が、真司が小島高史へ差し入れしている事で、苛められても懸命に生きる力を持っているのは、この母親のお陰だろうな、と思う。
・今作は、和真の幼馴染の女の子が殺された姿が映されたり、二ノ宮佐知の売春のシーンなど結構観ていてキツイシーンが幾つかある。
だが、再後半に真司が、二ノ宮佐知をアルバイトとして採用し、彼女を漸くヤクザの男、横川哲に面会所で会わせるシーンは、沁みた。精神的なショックなのか声の出ない二ノ宮佐知は、画用紙にペンで”元気ですか?””私は元気です。”と書き、男が涙を流して、崩れ落ちそうになっても”生きて下さい。又、会いに来ます。”と書いて、男に見せるのである。二ノ宮佐知の、自分の罪を被った横川哲への、精一杯の思いであろう。
<今作は、刑務所の収容者に、日用品や手紙や書類を収容者の親族の代わりに届ける男とその家族が直面する出来事を軸に、善と悪、罪と赦し、絶望と希望を3人の愚かしき母と1人の賢母の姿を絡めて描いた作品なのである。>
シリアスで重い犯罪ミステリーを差入店の視点で。
古川豪監督のオリジナル脚本。
ミステリー小説的で、複雑で凝っている。
拘置所に差し入れをしたり、代わりに面会したりする
「差入店」の店主を物語の中心にした点は目の付け所がいい。
主役の金子を丸山隆平を配役した点は、
丸山さんは、あまり露出してないので、
リアリティがある。
拘置所には、大罪を犯して収監される犯罪者や、
死刑囚も拘置されていると聞く。
差し入れの食べ物や衣服には厳しい規制があり、
弁当や菓子、果物は差し入れ店が準備した物でなくてはならない。
それは毒物の混入や、メモなどの通信などを防ぐ目的だろう。
主人公の金子は元受刑者で、今は差し入れ店を引退した
伯父の星田(寺尾聰)の後を引き継いでいる。
金子の過去、
傷害事件を起こして4年服役した経緯がある。
しかも妻の美和子はその時身重だった。
次の場面では、10年後になる。
本当に奥さんの献身で更生したんだよね。
真木よう子、明るく強い人だった。
そして事件が起こる。
和真の友達で幼い頃から知る近所の花梨ちゃんが行方不明になり、
その後殺された遺体で見つかる。
そして犯人の男・小島(北村匠海)が拘置所に収監される。
金子は小島の母親の代わりに、面会に通うことになる。
母親(根岸季江)に、明らかに問題がありそうだし、
小島は瞼が生まれつき塞がって生まれたという障害を抱えている。
そしてもう一つの事件。
元暴力団員で、鉄砲玉として殺人を命令され15年服役して、
刑期を終えた孤独な男(岸谷五郎)の犯した強盗殺人事件。
《この事件には裏がある》
担当弁護士の久保木(甲本雅裕)も悩むほどの、陰惨な事件。
そして拘置所に毎日面会を申請に来る被害者の娘・佐知(川口真奈)
(被害者に面会が許されることはないのだ)
この女子高生は非常に影ある重要な役で、映画の後半の
大事なキーパーソンで、岸谷五郎も、演技の見せ所であり、
暴力団員で替え玉殺人を請け負ったばかりに、人生を失った男。
彼の唯一の善行とも言えるのが、佐知の母親を殺した(?)こと、
だとしたら、
これも一つの贖罪なのかもしれない。
ただ無差別殺人犯の小島と金子が面会室で相対する。
北村匠海は、「悪い夏」に引き続いて汚れ役。
汚れた長髪、まぶたのふさがった障害を持つ捻くれ者。
チック症・・・役作りは完璧です。
全体的に犯罪ドラマとしても新鮮味があり、
差入店をテーマにしたアイデアは生きている。
丸山隆平、妻の真木よう子、息子の三浦綺羅、伯父の寺尾聰、
北村匠海、岸谷五郎、そして名取裕子、
久しぶりのスクリーンなのに、こんな毒親やる根性、
好きだよ。
川口真奈の好演も印象的。
全体に人間が描けている満足感の高い作品だと思いました。
観客は多かった。
知らない世界
刑務所内の受刑者に差入れを届けるお仕事のお話。
まず、こう云う仕事があるのかーと思った。
そこのお店で差入れを選び、それを届ける。
へー着眼点が面白いなっと。
それだけで中々見応えあります。
ドラマとしては単調。
浮き沈みなく、淡々とそのお仕事が描かれる。
本来盛り上がらなければならない、ラストのヤクザと女子高生の部分が、イマイチ感動できなかったのはおそらく要素を詰め込みすぎて、この2人のお話が薄いからかなと思ってしまった。
あと、主人公が、癇癪持ちで、いまひとつ共感できず、、惜しい作品。
全34件中、21~34件目を表示
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