「素材と着眼点は面白いのだが、この職種ゆえにあるはずの熱量が足りないように思えた」金子差入店 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
素材と着眼点は面白いのだが、この職種ゆえにあるはずの熱量が足りないように思えた
2025.5.21 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(125分、 G)
差入店を営む夫婦がある事件に直面して苦悩する様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は古川豪
物語の舞台は、都内某所
差入店を営む金子真司(丸山隆平)は、妻・美和子(真木よう子)に支えられながら、息子・和真(三浦綺羅)とともに慎ましく暮らしていた
真司はかつて暴行事件で服役していたことがあり、出所後に叔父・辰夫(寺尾聰)の仕事を引き継いでいた
ある日のこと、和真の幼馴染・花梨(金子莉彩)が夜になっても帰ってこないと連絡が入った
美和子とともに捜索に参加した真司だったが、数日経っても見つかる気配はなかった
そして、最悪な知らせとともに、その事件は幕を下ろしてしまった
犯人は花梨を含む7人を殺害したとされる小島高史(北村匠海)という若者で、彼の母親・こず江(根岸季衣)はマスコミの前で態度を二転三転させる曲者だった
そんな彼女はどこかで差入店のことを知って、真司の店に訪れたのである
物語は、知人を殺した犯人に差入をするというもので、そこで感じる憤りなどが描かれていく
相手はサイコパス気質の若者のために対話にならず、見透かされているように翻弄されていく
とは言え、これらの事柄も真司に起こることのひとつに過ぎず、後半には別の関わり合いがクローズアップされていた
それが、拘置所に面会に来る女子高生・佐知(川口真奈)に関係する事件で、冒頭で真司が肩をぶつけた元受刑者・横川(岸谷五朗)が起こした殺人事件だった
横川は自宅売春をしている佐知の母・芳恵(まひろ玲希)を殺した罪で再度刑務所に戻った人間で、佐知は彼に会いたいと願っていた
被害者遺族の未成年が被疑者と会うということは許されておらず、それゆえに刑務官たちからは煙たがられていたのである
映画は、お仕事系としては興味深いのだが、ヒューマンドラマとしてはイマイチに感じる部分がある
それは、真司がこの仕事にどう向き合っているかというところが見えづらく、小島との対話から推測すると、「社会的制裁のためにやむなく叔父の仕事を引き継いだ」というものになると思う
また、和真のいじめに際しても「いじめられるくらいなら辞めても良い」と考えていて、差入店に対する思い入れとか、存在意義、哲学というものを持ち合わせていない
さらに、そのことについては妻の方が理解度が高く、現場にいくことはないのに、その意義を感じている部分があった
それならば、美和子自身が女性受刑者に差入に行くとかで関わりの深さを示す必要があると思うし、実は彼女も元受刑者で、真司の差入を受けていた、という設定があっても良いと思う
真司自身が差入された側としての恩義を感じていないし、されることに対する感度というものがあまりない
叔父自身も依頼を淡々とこなすだけと言うように、この仕事に向き合う強さと言うものは元々ないのかもしれない
実際に差入している人がこのようなマインドなのかはわからないが、業務の重たさを考えると、普通の人にできる仕事ではないと思う
なので、その部分も含めて、この仕事の意義を真司が強く持っているとか、それが小島の存在によって揺らぐと言うエピソードがあった方が、物語としてはまとまったのではないだろうか
いずれにせよ、面白い設定だなあと思いつつも、あまり響くところがなかったのは、ひとえに真司の熱量の低さなのだと思う
母親(名取裕子)に反対されていると言うこともないし、その母のエピソードも物語上で必要には思えない
映画には、いわゆる毒親が登場し、その因果が事件を起こしているように描かれるのだが、それが真司たちの家族との対比にもなっていないように思う
社会から理解されづらい仕事であると思うのだが、どのように社会が捉えているかと言うところも映画では短絡的に描かれていた
また、植木鉢が割られる程度の嫌がらせしか発生せず、あんなに堂々と開店しているのかも不思議に思った
そのあたりの「リアルに感じられるクオリティ」と言うのが弱く感じるのが難点で、そう言った部分を改善するだけでも良くなったように思う
佐知が人を押し除けて座ろうとするとか、最後の植木鉢は花ごと捨てるみたいな描写になっているのも意味不明に思えるので、そういったところも含めて、細部を詰めた方が良かったのではないか、と感じた
作中で描かれた内容を組みなおすだけでも、
熱量が低い→高史の事件や和真へのいじめで更に揺らぐ→佐知の一件で意義を見出す
といったような流れがつくれたように思います。
仰る通り、素材と着眼点の良さを構成が殺してしまった印象でした。
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