劇場公開日 2025年5月16日

「差し入れているのは温もり」金子差入店 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0差し入れているのは温もり

2025年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

難しい

幸せ

予告は目にしませんでしたが、刑務所への差し入れという商売に興味をもち、公開2日目に鑑賞してきました。

ストーリーは、刑務所や拘置所に収容されている人たちに、依頼を受けて差し入れを代行する差入店を営む金子真司が、息子の幼馴染の女児を殺害した犯人の母親からの依頼を受けて複雑な思いで刑務所を訪れたり、刑務所では自分の母親を殺害した犯人への面会を求める女子高生を度々見かけたりする中で、面会人、犯人、加害者家族、被害者遺族、自分の家族、世間の人々などの思いに触れ、犯罪者や差し入れという仕事への向き合い方を改めて見つめ直していくというもの。

差し入れ代行なんて職業があるとは知りませんでした。一見簡単な仕事のようにも思えますが、犯罪者と対面したり、世間から好奇の目で見られたりと、心理的には負担が大きそうで、なかなか大変な仕事だと感じます。

しかし、それ以上に感じたのはその仕事の大切な役割です。差し入れているのは何の変哲もない日用品や食料かもしれませんが、差し入れという行為そのものが、塀の外とのつながりを感じさせ、収監者の心に温もりを届けているのでしょう。収監者にとって、自分は見捨てられてはいない、外で待ってくれている人がいると思えることは、何よりも心の支えとなります。真司が差入店を継いでいる理由もここにあるのでしょう。

本作を通して、少しでもこの仕事への理解が広がるといいし、どんな仕事にも大切な役割があるのだと考えられる人が増えるといいです。先日観た「うぉっしゅ」でも「職業に貴賎なし」と何度も繰り返されていましたが、まさにそのとおりだと思います。劇中、真司の仕事が原因で、息子が学校でいじめを受けたり、妻が近所で陰口を叩かれたりという描写があり、日本人はいつからこんなに不寛容で攻撃的になったのかと心底悲しくなります。

それでも真司が心折れずにがんばり続けていることは、邦画には珍しいポストクレジットから伝わってきます。そして、その思いは息子に受け継がれ、強く逞しく成長したことも伝わってきます。個人的感情や先入観だけで他人を叩く風潮が絶えない、こんなクソみたいな世間にあって、信念をもって正しく生きることは本当に難しくなりました。しかし、本作を通して、金子家のみんなから少しだけ勇気をもらった気がします。後味のよい作品でした。

ただ、ポストクレジットの後味のよさに対して、全体的には構成がやや雑だったような気がします。例えば、序盤から繋がりの悪さを感じたり、それが以降にもあったりで、もう少しうまくつながるとよかったです。他にも、さまざまなエピソードがちょっと散漫だったり、セリフに聞き取りにくいところがあったりで、いろいろと惜しい作品でした。とはいえ、間違いなく見応えはあるので、気になる方は劇場でご覧ください。

主演は丸山隆平さんで、真面目に仕事に向き合う真司を好演しています。脇を固めるのは、真木よう子さん、三浦綺羅さん、川口真奈さん、北村匠海さん、村川絵梨さん、甲本雅裕さん、根岸季衣さん、岸谷五朗さん、名取裕子さん、寺尾聰さんら。主演から子役までみなさん演技が上手で引き込まれます。

おじゃる
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